第6話 トラベリアポータル



「どうした? なんて書いてあるんだ、見せて!」


 僕はフリーゼの手から手紙を筆禍来るように奪い取ると、そこに書かれた文字を読む。


「……? これってどういう意味だ?」


 手紙にはたった一行。

『ホンブ キトク スグ カエレ』

 そう書かれているだけだったのだ。


「書いてあるとおりだぞ」

「いや、本部危篤ってどういう意味だよ」

「そのまま本部が危険な状況だってことだ。きっとヤツが来たんだ。急いで帰らないと!」


 フリーゼはそう言うと部屋の中央に置かれた二つの箱を軽々と持ち上げて外に飛び出そうとした。

 僕は何が何やらわからず彼女を引き留め、そして聞いた。


「まてよ。ヤツって誰だ。本部がそいつに襲われてるってことなのか?」

「多分そうだ。ヤツは一年前からずっと本部を壊そうとしてたからな。だからもし私が不在の時にヤツが来たら直ぐに連絡をくれるように本部のお隣に住んでるミセリアにお願いしておいたんだ」


 フリーゼの言っている意味は正直よくわからない。

 だけどその『ヤツ』とやらが僕がこれから立て直す予定のギルドの本部をぶち壊そうとしていると言うことだけは間違いなさそうだ。


「スパーダもさっさと自分の荷物を持ってくれ。今から全力で走ってナールの町まで戻るから!」

「いやいや、ちょっとまて」


 今にも飛び出していきそうなフリーゼのその言葉に、僕は呆れた声を上げる。

 どうやら彼女はこれから荷物を抱えて王都から遙か離れたナールまで走って行くつもりだったらしい。


 脳みそまで筋肉で出来ているビーリズエルフのフリーゼなら可能かもしれないが、それでも数日でたどり着けるような距離では無いはずだ。


「そもそもフリーゼ。君がナールから王都へ来るのにどれくらいの日数が掛かったか覚えてる?」

「えっと、確か……20日ほどだったかな」

「じゃあ帰り道もそれくらい掛かることはわかるよな?」

「ううっ、でも急がないと本部が」


 どれだけ急いでもナールまで戻るのにはかなりの日時が掛かる。

 そのことに今さら気がついた彼女はがっくりと肩を落とし、その場にしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫だ」


 僕はそんな彼女の肩を二度ほどポンポンと叩いてそう告げる。


「僕に任せろ」


 そして彼女に背を向け振り返ると、荷物の無くなった部屋の中央に向けて両手を突き出し目を閉じる。


「たしかこうやって……こうして……」


 僕は前世の記憶にある魔法を脳内で構築する。

 かなり複雑な術式で、普通の魔法使いなら構築だけでも半日くらいはかかるだろう。

 だが僕はそんな魔法をあっという間にくみ上げると――


「トラベリアポータル!!」


 構築した魔法を発動させる魔法名を呟いた。

 すると、部屋の中央に人間一人分ほどの青く輝く渦としか表現できない物体が現れる。


「あっ、それはスパーダの」

「思い出したかい?」

「すっかり忘れてた。スパーダにはその魔法があったんだ」


 トラベリアポータル。

 それは僕が過去に一度でも行ったことがある場所であれば何処にでも行くことが出来る魔法である。

 通信魔導具の技術公開には応じた僕だったが、このトラベリアポータルに関してだけは死ぬまで信頼できる仲間以外には存在を伝えなかった。

 それでも当時、この魔法を習得できたのは僕以外では立った一人の人間だけ。

 150年以上経った今、人間族であった彼はもう亡くなっているはずで。

 だから今の世の中ではこの魔法を使えるのは僕一人だろう。


「さぁ、すぐにナールの町へ行こう」


 僕はしゃがみ込んだままのフリーゼに手を伸ばし彼女の腕を掴んで立ち上がらせる。

 そして僕らは二人でトラベリアポータルの渦に飛び込んだのだった。


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