第5話 届けられたSOS
「ただいま」
「おかえり。荷物は纏めておいたけど、本当にコレで全部なのか?」
部屋の中央にあった机と椅子は部屋の隅に移動させた。
そのかわり今、そこには奥の部屋から持って来た人が抱えられるほどの箱が二つ置かれている。
そう、たった二つの箱に入る分しか荷物らしい荷物は無かったのだ。
もちろん脇に退けた机や椅子、そして元から備え付けられていたであろう家具は除いてだが、それにしても少なすぎて、僕は最初どこかにもう一つ隠し部屋でもあるのでは無いかと疑ったほどである。
「ああ、それで全部だぞ」
「少なすぎないか?」
「家賃を払うのに売れそうなものは全部売っぱらったからな。残ってるのは売れないものと売れなかったものだけだ」
フリーゼが言うには、元々はこの支部にもギルドとして機能するために必要最低限な機材は揃っていたらしい。
最初の50年ほどは『レムリス』時代に貯めていた資金と名声で『ナール』を運営出来ていたのだが、次第に『レムリス』時代の顧客が亡くなっていくにつれ彼女への依頼が減っていったという。
なんせ僕の記憶の中でもこの脳筋エルフには営業するという能力が皆無で、僕が死んだ後も彼女に依頼をくれていた人たちは彼女の個人的なファンだけだったからであった。
そしてそんな彼女がギルド運営を上手くやれるわけもなく。
結局は百年前にため込んだ彼女の個人資金だけが唯一の頼りだったという。
「もうお金も無くてな。あと1年以内にスパーダが来なかったら、私はギルドを畳んで故郷の里へ帰るつもりだったんだぞ」
「そ、そうなんだ。待たせて悪かったね」
「気にするな。勝手に勘違いしてギルドまで作って待ってたのは私なんだからな。それでだ――」
コンコン。
フリーゼが何かを言いかけたその時だった。
窓の方からそんな小さな音が聞こえ、僕たちはそちらに目を向ける。
「ん? 何の音?」
「あれは、伝書バードじゃないか」
フリーゼは窓に近寄りわずかに開けると、一羽の鳥がぴょんぴょんと跳ねるように室内に入ってきた。
「この色は緊急連絡!」
一般的に『伝書バード』と呼ばれる連絡用の鳥は昔から存在していた。
僕が通信魔導具の技術を公開してからは利用されることが少なくなったが、今でも通信魔導具ではやり取りできない場所や、通信料が払えない人たちの間ではまだまだ現役らしい。
その伝書バードが足に伝書筒と呼ばれる手紙入れを結わえた状態で入ってきた。
筒の色は赤で、緊急の連絡の場合に使われるものだった。
他にも青い筒だったり、黄色だったりと用途によって使い分けられている。
フリーゼは伝書バードの足に結わえられた伝書筒から手紙を抜き出すと、急いでそれに目を通しそして――
「た、大変だスパーダ!」
手紙を読んだ彼女は僕に目を向けると血の気の引いた顔で叫んだのだった。
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