第3話 取り戻した前世の力と脳筋エルフの願い
それは僕の『前世の記憶』だった。
前世、僕はこのレムレリア王国に住んでいた。
そしてそこで僕は史上最強のギルド『レムリス』のギルドマスター『スパーダ』として数多くの功績を打ち立てていた。
『史上最強のギルドマスター』と呼ばれていた当時の僕、すなわちスパーダは沢山の仲間たちと共にギルドを守り、育てていった。
そのギルドはランキング制度が出来てから10年間トップの座を守り続け、そして……。
「僕は、死んだのか」
僕の死と共に分裂し、その分裂した一つが『ナール』だとフリーゼは言う。
前世の僕が死んだのは今から150年程前。
その辺りの記憶はぼやけていてわからないが、どうやらその時僕はこの木の棒と遺言を残したらしい。
らしいというのは、そのことは後でマッスルエルフ――フリーゼに聞いたからである。
彼女の実年齢は242歳で、ビーリズエルフというエルフ族の中でも肉体の強さに特化した珍しい種族である。
「やはりお前がスパーダの生まれ変わりだったのか!」
ガタッという音と共に椅子から立ち上がったフリーゼは、そのままの勢いでテーブルを越え僕に向かって飛びついてくる。
僕は今だに混乱が収まらない頭の隅で小さく呪文を唱えた。
「
その文言と共に僕の目の前に薄い透明の防御壁が形成された。
ゴンッ。
「ぎゃっ」
鈍い音と共に、防御壁に衝突したフリーゼの悲鳴が響く。
「危ない危ない。フリーゼの怪力で抱きつかれたらしんじゃうところだった」
「ひ、酷い。私だって手加減くらいするというのに」
「嘘つけ」
僕は防御壁を解くと額を押さえて蹲ってるフリーゼの手を取って立ち上がらせた……後、すぐに椅子に座らせる。
なぜなら二人とも立ったままでは僕が彼女を見上げなければならないからだ。
「全て……とはいわないけど思い出したよ」
「スパーダ。本当にスパーダなんだな? 偽物じゃないよな?」
「偽物……かどうかは僕にはわからないけど、確かに僕には前世の記憶があるよ。ちゃんと魔法も使えるしね」
僕は机の上で姿を変えた木の棒……いや
あの頃僕は生まれ変わりについて研究していた。
それはエルフであるフリーゼや、仲間の長命種と人間族である自分の寿命の差を気にしたからだったかも知れない。
この辺りの記憶も曖昧だが、間違いなく僕は生まれ変わりの仕組みを解明し、生まれ変わった後に過去の自分を取り戻す方法を完成させた。
そのために使う魔導具がこの
「それにしても本当に生まれ変わったスパーダがこのギルドに来るなんて驚きだな」
「別にギルドに来たわけじゃ無いだろ。僕はこの杖の元に必ず辿り着くから、その時はこの杖を僕に握らせれば記憶が戻るとしか言ってなかったはずだ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それに僕が死んだ時はまだ『ナール』なんて無かったじゃないか」
エルフという種族は聡明だと言われている。
だが彼女たちビーリズエルフはその脳みそまで筋肉で出来ているのでは無いかと言われる、いわゆる脳筋な種族なのだ。
といっても決して馬鹿な訳では無く、むしろ普通の人間よりは優秀な頭脳を持っている。
なので百年以上前の記憶は長命種であってもぼやけてしまうのは脳筋のせいなどでは無い……はずである。
「しかしやっぱり僕はスパーダじゃなくアルマだと思う」
「どういうこと?」
「記憶は確かに戻ったけれど、でも僕にとっては今もアルマとして育ってきた記憶の方が強いんだ。だってほら、僕は記憶が戻ってからも『僕』って言ってるだろ?」
「そういえばスパーダは自分のことを『ワシ』とか言ってたよな」
「……なんか人から聞かされると恥ずかしいなそれ」
「初めて会った時は『俺』って言ってたのにな」
僕は自分の一人称の変遷を聞かされて恥ずかしくなってきた。
逆に言えば普通に使っていたその一人称を恥ずかしいと思ってしまう自分は、やはりスパーダではなくアルマなのだろう。
結果的には転生は成功したとも言えるし失敗したとも言える。
だけど僕は後悔していなかった。
なぜなら僕は前世で最後に残した願いを今世で叶えることが出来る『力』を手に入れたからだ。
だが、その願いを叶える前に前世の力を使って僕にはまずやるべきことがある。
それは――
「フリーゼ」
「なんだ?」
「確か僕は前世で死ぬ前に君に一つ約束をしていただろ?」
僕の言葉にフリーゼは頭をコテンと横に倒し考え事を始めた。
だがすぐに頭を戻すと「わからん。覚えてない」と言い放ったのである。
「はぁ。そうじゃないかとは思ってたけどね」
「いったいスパーダは私とどんな約束をしたのだ?」
僕はぼやけては居るが覚えている当時のことを思い出しながらフリーゼの問いかけに答えた。
「もし僕が生まれ変わることが出来たら、その時はフリーゼの願いを一つだけ叶えて上げるって言ったんだよ」
「願いを?」
「もちろん僕が出来る範囲でだけどね」
いくら前世の僕の力が強大だったとしても、やれることには限度がある。
僕は神様ではないのだから。
「そうか。願いか……うん、あるぞ。スパーダが生まれ変わったらやってもらいたいってずっと思っていたことが」
「ずっと?」
「ああ。百年くらいずっと思ってたことだ」
百年もの間フリーゼが心に持っていた願い。
そんな途方も無い願いを僕は叶えられるだろうか?
いや、とにかくその願いを聞いてからそれは考えるべきだろう。
このフリーゼのことだ。
もしかしたら美味しいご飯を奢って欲しいとかいうような簡単な願いかもしれない。
「わかった。僕が出来る範囲でなら叶えて上げるから言ってみなよ」
「じゃあ言うぞ」
フリーゼは目を閉じ少しの間息を整える。
もしかしたらその願いは僕に叶えられるかどうかわからないほど難しい者なのだろうか?
そこまでの覚悟で告げられる願いとはどんなものなのか。
僕の心臓の鼓動が早まっていく。
「スパーダに叶えてもらいたい私の願いは――」
「願いは?」
「このギルドのギルドマスターになって欲しい。それだけだ」
その日その時その一言。
それが『最弱ギルドの最強ギルドマスター』を産みだした瞬間だった。
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