怪しい村木派、女性の団結
最新の世論調査が発表になった。
女性票に限れば、20%支持率が回復した。全体でも50%にまで回復した。
「さて、これからが本番だな」
コーヒーを飲みながら、田村〈ゲルルス〉がつぶやく。
次回のテレビ番組では、ついに市民権法の制定意義を説明することになる。
歴代の内閣で、ここまで国民に対して説明した政治家はいないのではなかろうか。そして、この法案が通れば、アウグスト星からの移民は容易になり、文字通り植民地を築くことができる。そうすればゲルルスの王族としての地位は否応なしに高まるはずである。
徴『政治家』制について聞かれることが多いが、あれは移民がある程度進んでからの話だ。国民の中から有能なものを強制的に召し出すだけのことなのだから。
コーヒーをもう一杯飲もうとしたところ、誰かが急に耳にイヤホンのようなものを差し込んできた。うっすらと柑橘系の匂いがする。メイ・フィブリルであろう。
「殿下、村木派に不穏な動きがあります。先日のテレビ放送の揚げ足取りを仕掛けてくるようです。それ以外にもぼろぼろときな臭い話や妙な点があります。そもそも、失言した大臣二人は、以前から口が滑るというか失言する傾向にあったものの、講演会の内容がもれることはありませんでした。マスコミにリークしたのが村木派です。それと浮気問題の大臣についてですが、浮気相手の女性は村木派の議員がよく通うクラブのホステスです。週刊誌が不倫現場を撮影できたのも、村木派の手引きがあったからかもしれません」
田村〈ゲルルス〉がうなずきつぶやいた。傍から見るとひとりごとを言っているようにしか見えない。
「敵、ということだな」
「総理、等々力幹事長と仁科官房長官がいらっしゃいました」
「お通ししてくれ」
等々力〈ジャン〉と仁科〈ターナ〉が自慢気な顔をしながら部屋に入ってきた。
「総理、友正党内のことで、お耳に入れておかねばならないことがあります」
「どんなことだ?」
「実は村木派によからぬ動きがあり、総理の足を掬おうと画策しているのです。先日のテレビ放送の内容についてと思われます」
もう知ってるけど、これは二人の努力に報いるため、大げさに驚いてやらねばならない。
「なんだって!大変じゃないか!背後から撃たれたらたまったもんじゃないぞ!」
耳に残っているイヤホンからブフォっというわけのわからない笑い声のようなものが聞こえた。棒読みだったから? とにかく、対策をしなければならない。
「どうやら、平日昼のワイドショーに出演するようです。村木派の長である村木議員そのひと自身が出演するらしいです」
「なんとか同じ番組に出演できないかな」
「総理大臣が何度もテレビ出演するわけにはいきません。官房長官であるわたくしが出演させていただきます。政治的公平性を盾に出演をねじ込みます」
頼もしい限りだ。
村木議員は穏やかな笑顔のできる、物腰の柔らかい人物であった。裏工作を仕掛けてきた人物には到底思えない。
まるで味方になってくれるかのような笑顔で話し出した。
「わたしは基本的には総理のおっしゃることに賛成なんです。ただ、野党の方々とか、有識者の方の中には、疑問を持たれる方も多いようなので、同じ与党の人間としては心配になるんですよ」
こういうのを真綿で首を絞めるように、というのだろうか。
「具体的にどのような点がひっかかるのでしょうか?」
昼のワイドショーのアナウンサーの岩井澤が合いの手を打つ。このアナウンサーは自己主張が強くなく、出演者の話をうまく聞き出してまとめるのがうまいとの評判である。
「まずは奨学金の所得控除の話ですが。やはり、個人の借金を減額する形になるのはいかがなものかと思いますよ。大学進学せずに、奨学金を受けずに働いている方もたくさんいらっしゃるわけですし。奨学金が本人の利益になっている以上、返済の補助のようなものは公平性を欠くのではないかという指摘も聞いております」
「村木さんからのご意見ですが、仁科官房長官、コメントをいただいてもよろしいでしょうか?」
「金銭の貸し付けと返済だけであれば、何も国がかかわる必要はないのです。奨学金の貸し付けの目的は、経済的に恵まれていない家庭であっても、才能や努力で人生を切り広げていくことができるように、そんな目的のためのものです。金銭で買えないものが世の中にはたくさんありますが、買えないはずのものを買ってしまおうというのが奨学金の目的です。」
「何をいってるのか要領を得ないな」
「人生に対するやる気、将来に対する希望というのはいくら言葉をかけても得られるものではありません。自分の人生を応援してくれる制度がある、挑戦を認めてくれる制度があるというのは、大きな助けになるはずです」
村木議員が野太い声でわらう。
「いやいや、それと奨学金返済の負担軽減は別問題でしょう?」
「その奨学金の返済が人生設計を立てる上での障害になっているのです。このまま放置しておけば、日本という国は、国はわずかな金銭を惜しみ国民をないがしろにし、国民は将来に希望を持てず国家に愛着や信頼を抱かず、国も国なら国民も国民だと諸外国の笑いものになるでしょう。今回の制度変更をきっかけに、将来的には返済途中での免除も検討しています」
「それは先日インターネットの動画で総理が話されていたことですね」
「そうです。立派に国民として所得税を納め社会の一員として活躍していてくれれば奨学金の目的は達成されています」
「まあ、奨学金の話はこれくらいにしておいて、次に行きましょうか。女性と出産育児についてです。わたしも基本的には総理のお考えに賛成なのですが、人気取りに走りすぎているきらいがあるでしょう? 同じ政治家としていかがなものかと思いましてね」
仁科〈ターナ〉が首をかしげながら答える。
「女性の視点からは、そのようなことは感じませんでしたけど?」
「そうですか。育児が公務に等しいとか、ダメな議員よりも国のために役に立っているとか、それは言い過ぎというか、媚びているのではないでしょうか? 国や政府の方針が間違った場合、つらい思いをするのは国民の皆様なんですよ? 公務というのは、そういった性格を帯びるものですからね」
「そういった人々もふくめて育て上げているのですよ。テレビをご覧の皆様、田村内閣はこれまでにないほど女性の役割を高く評価しています。もしも今の内閣を応援しなかったら、今後女性の地位向上に興味を持つ政治家はいなくなるかもしれません。応援される側の女性たちが、応援してくれる政治家を支持しなかったら、どんなメッセージが伝わると思いますか?」
岩井アナウンサーの方を振り向きながらしゃべり続けた。
「どんなメッセージでしょうか?」
「『わたしたちは応援なんてしてほしくない』です。」
「まだまだお話は尽きなさそうですが、そろそろお時間ですので、このコーナーは終わりになります。本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございました」
CMのあとは名物天気予報士アナウンサーのコーナーのようだ。
仁科〈ターナ〉はひどくつかれていた。だが、己の役割がまだ終わりでないことを知っていた。彼女を乗せた車はそのまま光明党へと入っていった。
仁科〈ターナ〉が面会したのは光明党党首ではなく、女性部の部長であった。
「単独でお会いするのは初めてのことと存じます」
「そうでしたかしらね。お会いできてうれしいですわ」
時間もないので、差し障りのない話ばかりしていられない。
「今日の昼のワイドショーはご覧になりましたか?」
「もちろんですわ。同じ与党のなかでもいろいろございますね」
「同じ女性として尋ねたいのです。今の内閣の政策、特に女性に関連するものについて、光明党の女性部はどう判断しますか?」
「どう、とは?」
「支持できるかどうかですわ。今の内閣を支持しなかったら、女性関連の政策は、今後20年は進展が望めないでしょうね」
「なにか、脅されている気がして気分が悪いですよ」
「そんなことはありませんよ。ただ、協力できるのは今の内閣であればこそだとは思いませんか?これまでの内閣で、ここまで具体的に女性に言及した内閣はありましたか?これはチャンスなのです」
「わたくしの一存では決められないことですね」
「友正党と光明党、新政党の女性局の会合の場を設けさせていただきたく存じます。女性同士で団結してしまえば、おやじ政治家など木っ端みじんですわ」
二人ともずっと微笑みを絶やさず話し続けた。政治家は敵を作らないのが何より大事であろう。
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