ネット番組に出る

 秘書官の川島は優秀な男で、翌日にはインターネット番組の企画を田村〈ゲルルス〉に持ち込んだ。出演者は元県知事の舘林とインターネット界隈で名前が知られた東海林。二人とも、ズバズバとものを言うようにみせて、意外に気を遣ってくれる。


「ベータTV始まって以来のVIPゲストです。なんと田村総理大臣にお越しいただきました」


 まばらに拍手が起こる。何しろスタッフがほとんどいない。カメラも簡易的なものが2台あるだけである。先日のテレビ局のスタジオとの差に驚きながらも顔には出さない。


「総理大臣の田村でございます。本日はお招きいただきありがとうございます」


「まぁ、お招きといわれるほどの番組ではないんですけどね」


 東海林が茶々を入れる。


「いやいや、政治を語るのに、派手なスタジオやセットは必要ないんですよ。頭と心だけです。求められるのは」


 情熱家である舘林がかぶせるように喋る。


「早速本題に入りましょう。田村総理は先日の番組で、若者の支援のために、奨学金返済を所得控除の対象にすると発表されました」


 奨学金には返済不要なものと返済が必要なもの、返済が必要なものには無利子のものと有利子のものがあること、返済は卒業後に始まり、税金や社会保険料などを払った手取り額から返済が必要なことが説明された。


「ちょっとえげつないですね」


 東海林がコメントする。


「問題なのは、奨学金の返済が若者の人生設計に悪影響を与えていることです。返済のために財産形成がすすまない。結婚も時期が遅れる。いったい何のための奨学金なのか。目的に反しているならば、制度を改正するのが政治家の仕事です」


「ちょっといいですか。僕はそもそも、奨学金を借りてまで行く価値のある大学がすくないところが根本的な原因だと思ってるんですよ。●×※大学とか、◇■◎∀大学とか。むしろ在学していた事実がマイナスに働いても不思議ではないですよね。」


「東海林さん、話の途中ですが、大学名がよく聞き取れなかったです。もう一度おねがいしていいですか?」


「だから、●×※大学とか、◇■◎∀大学とか」


「やっぱり聞き取れませんね」


「言えるか! いい加減察してください!」


「私は、若者には挑戦する自由があると信じている」


「挑戦する自由?」


「失敗する自由と言ってもいい。力いっぱい頑張って失敗する自由だ。義務に近いのではないかとさえ思っている」


「それと奨学金の返済支援とのつながりについてうかがってもいいですか?」


「そもそも、奨学金というのは、経済的に進学が困難である若者に金銭を貸し付け、成長を助けるものです。その目的は若者の応援、別に貸し付けて儲けようというものではないです」


「それはまあ、そうですね」


「頑張って成功する者もいれば、失敗する者もいます。途中で進むべき道を変える者もいます。成功と失敗は必ず生まれるものです。奨学金に見合った利益が得られないことも当然あるでしょう。挑戦したけど失敗したものに不利益として負わせるのはいかがなものかと思うわけです」


「そこまで言うのなら、いっそのこと返済を免除にしてもいいんじゃないでしょうか?」


「将来的には、そこを目指して進みたいのですが、いきなりそこまで踏み込むのは反対意見が予想されるわけですよ。若者の負担を減らすという枠組みさえ作ってしまえば、あとでそれを拡大するのは容易なわけです」


「自分が学生の時にやってほしかったですね」


「それは政治の力が及ばなかったためであり、政治家としては申し訳ないと思います。でも、これからに期待していただきたい。それには皆さんの支持が必要です。そして、若者の皆さんに選挙に行ってもらうことが重要です。」


「本日はご足労いただきありがとうございました」


「有意義な時間に感謝します。課題は山積していますので、次の機会もあるとうれしいです」


 この動画をインターネット上で放映するだけでは若者の目につかないので、SNSなどで拡散させる。これは金銭的な負担を気にしなければ、容易なことであった。そういった会社に依頼するだけであった。


 数日後。


 川島秘書官が嬉しそうに書類を持ってきた。


「田村総理、最新の世論調査の結果が出ました。全体で5%、若者だけに限ると15%上昇しています。新しい政策が支持されてきたのでしょうか」


「まあ、頑張ってる感が伝わったってことだろうね」


 コーヒーを飲みながら、穏やかな雰囲気になっているところに等々力〈ジャン〉幹事長が入ってきた。


「ゲル……田村総理。ちょっとお耳に入れておきたいことが」


「ん?どうした?」


「党内向けの説明なんですが。党内最小派閥の村木派が間に合わなかったんです」


「間に合わなかったなんてことあるのか。予定を組んであったはずだろう?」


「急な用事で都合があわなくなったとかで向こうから予定をキャンセルしてきたんです」


「それは仕方ないよね」


「ところが奴らは、自分たちはのけ者にされた、何も話を聞いていないと党内でふれまわっているそうです。そして、テレビ出演よりも党内での対話を優先させるべきだとも言っているようです」


「ほかの派閥には私が事情説明に回るよ。あんな弱小派閥、なんとでもなるさ」


「しかし、もともと因縁の相手ですよ。友正党総裁選挙で争った相手ですからね。それ以前には総理大臣への野心など見せない男でしたが、ある日から突然変わってしまったようです」


 総理秘書官の川島が近くにいるので、下手なことは喋れない。


「この件の調査はあの人が適任だと思うからよろしく」


「承知しました」


 この部屋のどこかにいるだろうから、これで伝わったはずだ。


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