第13話 過去未来現実
先生がガリレオでも、今までと何も変わらない二人暮らしが続いた。ただ、何となく今までより会話が増えたような気がする。僕は先生のイタリアでの暮らしや研究の事を知りたがり、先生はなぜか現代の科学よりも自分の時代に日本で何が起こっていたのかを知りたがった。
「1600年言うたら、日本は戦国時代で、天下分け目の大きな戦があった年やな。全国統一を目指して日本中の武将が戦う。殺し合いみたいなもんや。ま、そんな時代を経て今の平和な世の中があるんやけど。この小さな国で土地をめぐって争うって、すごい時代やったんやろうなぁ。」
真剣に話を聞いていた先生は不思議そうやった。
「なぜ、そんな事がミツシゲに分かるんや?」
「先生、語り継がれるんやで。先生みたいに。偉業を成し遂げた人って、いろんな残された文献や、発掘された調度品から、当時何をしたのかきちんと研究されて、立証されたもんが教科書に載って、子供たちに語り継がれる。でも、確かに戦国時代の武将は400年後の世の中で名を残す事になるなんて、想像すらせずに戦ってたんやろうけど。そこも先生と一緒やな。」
先生はガリレオやけど、それは僕にとって全く関係のないことやった。幼馴染がいくら有名になっても、ハナタレ小僧の友人である事に変わりないのと同じだ。でも先生は歴史に名を残している事を知ってから、自分がガリレオである事を心配しているようやった。
「ミツシゲ、私は一生このままこの時代の日本で過ごすんやろか。」誰にも分からない問題を僕に投げかけてくる。でも、自分の事を本やインターネットで調べようとは絶対にしなかった。調べたのは、僕に正体を明かしたあの一回だけやった。知ろうと思えばいくらでも情報がある分、いつ死ぬかまで分かってしまう。きっとすごく怖いんやろう。そして、僕にはその怖さを想像することすらできない。
「どうやろう。僕には何とも言えんけど、時を超えて過去や未来に行った人はたいがい元の場所に戻るで。作り話の中でやけどな。」不安そうな先生に軽口を叩くように話続ける事しか僕には出来なかった。
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