第7話 望遠
食事を済ませた後、さらに我々は先へ進んだ。途中で何度も車を停め、ミツシゲは川や山を見ながら、機械を手に何かをしている。
「どうかなぁ。先生。」と機械の裏側を私に見せてきた。そこには今私が目にしている景色がきれいに小さく切り取られていた。絵画ではなく、景色そのものが機械の中に入ってしまっているようだ。仕事部屋の額縁に出現するのはこの機械で切り取られた風景なのだな。確か、絵と写真で仕事をしているとミツシゲは言っていた。これが写真なのだろう。
何一つ感想を言わずに小さく切り取られた山と川に見入っていると
「使ってみて。良いのが撮れたら採用してまおう。僕の名前で。」と笑って首からかけていた機材を私に差し出してきた。受け取った機材は想像していたよりずっしりと重く、落としそうになった。慎重に首からストラップをかけ、ミツシゲがやっていたように、見よう見まねで顔を近づけてみる。ぼやけている景色にだんだん焦点が合ってくる。ここで「カシャ」。
私は夢中になった。どんな仕組みになっているのだろう。クライアントからの依頼で仕事に来ている事を忘れてしまう程だった。
「ちょっと先生、カメラ返して。」とミツシゲに言われた時には渋々だった。彼はカメラの半分をもぎ取り(!)、少し大きな物に付け替えた。
「これでどうや?」ともう一度私に渡してくれる。少々頭でっかちになり、さらに重さを増したカメラなる物をもう一度覗きこんだ。私は腰を抜かしそうになった。これは望遠だ。私が星を見る為に作った望遠鏡によく似ている。
「ミツシゲ!これには何枚レンズが入っているんだ?」突然、とんでもなく専門的な事を興奮気味に尋ねる私にミツシゲはぽかんとしていた。
「そんなん、メーカーの人に聞かな分からへんわ。ようけ入ってるんちゃう?望遠やし。」ミツシゲから半ば強引に望遠レンズをつけたカメラを借りて、私は写真を撮り続けた。見るだけでなく、記録の出来る望遠鏡だ。これで月を観てみたい。ふと私はレンズを空に向けた。
「わー、何しとんねん!!」ミツシゲが慌てて制止する。「レンズでおひさん観たら危ないやないか。」そうなのか・・・。
「夜になったら星が見えるけど、このレンズで星は見れんなぁ。天体望遠鏡やないと。」天体望遠鏡。この単語を私は必死で心に書きとめた。
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