第2話 救い
言葉が通じない。通り行く人に幾度か助けを求めて声をかけてみたが、私の言っている事が理解してもらえない。相手が話している言葉ももちろん理解できない。途方に暮れ空腹を抱え座り込んでいた。
「どないしたん?こんなところに座ってたら焼け死ぬで」
一人の青年が私の顔をのぞき込み、何かを言っている。何も分からない。お手上げだとポーズで示してみた。
「なんや日本語分からへんのか」
「どこの国からきましたか?」かたことの英語で彼は話しかけてきた。英語なら私も少しは分かる。
「イタリアから来た。空腹だ」
青年はにっこり笑って、鞄からたまご位の大きさの物体を取り出し、それに向かって何か話しかけた。するとそのたまごが私に流暢なイタリア語で
「何食べたい?」と聞いてきた。私は腰を抜かし、ひっくり返ってしまった。人懐っこい青年は、
「おっちゃん、ポケトーク知らへんのか」と笑いながら私に手を差し出してきた。「こいつは通訳や。何食べたいかこいつに言うてみい」とたまごを渡す。
「サンドイッチが食べたい」と試しにたまごに話しかけると、青年が「サンドイッチは僕にも聞きとれたわ」と笑って言った。「ほな行こか。」青年が歩き始める。たった今出会った青年。敵か味方かも分からないが、着いて行く以外の選択肢は私にはなかった。
10分も経たないうちに、きれいな店のきれいな椅子に座らされていた。目の前にはハムやチーズ、野菜がこれでもかと詰め込まれて口を閉じられなくなったバゲットと丁寧に抽出された珈琲が置かれている。
「困った時はお互い様っていうのがうちの家訓やねん。ちょうど昼ご飯を食べようと出てきたところやったし、遠慮せんと食べや。」お礼もそこそこに私は目の前のパンを食べ終え顔を上げると、彼はまだ半分も食べておらず、驚いた顔で
「よっぽど腹減ってたんやな。もう一つ買ってこよか?」と尋ねた。空腹が満たされた私は丁寧にそれを断り、改めてお礼を言った。
「気にせんでええって。僕はミツシゲ。おっちゃん、何ていうの?」
「私はガリレオ。ガリレオ・ガリレイ」
私の名前を聞いて、彼は大笑いした。
「すごいやん、先生!ま、深いことは聞かんとくわな」彼がなぜ笑うのか、そして何故名前を聞いてから私の事を先生と呼ぶようになったのか分からない。私からも彼に尋ねてみた。
「今年は西暦何年だ?」
「2015年やん。なんでそんな事聞くん?」2015年?今度は私が困惑して笑う番だった。そんな事ありえるのか?もし彼が言っている事が真実なら、私は一体どうしたらいいのだろう。そんなおとぎ話みたいなこと、この青年は信じてくれるだろうか。しかし、無一文の私には、今頼れるのは彼しかいない。
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