第46話 雨上がりの光の中でエビを味わう

一晩中、春の雨が降っていた。柔らかな慈雨ではない。雷と突風を伴った春の嵐だ。きっと満開の八重桜は散ってしまうだろう。風の音に耳を澄ます。眠れないかもと思ったのに、気がつけば朝だった。


そして昼を回れば、ようやく東海岸一帯を覆い尽くしていた雨雲が去って日差しが戻る。綺麗な光。ふとグラナダを思い出す。


あれも雨上がりだっただろうか。春の頃、アルハンブラ宮殿の城壁に燃えるような夕日が投げかけられていた。その向こうには雪をかぶったシエラ・ネバダ。越えればマラガ、その先は地中海、ジブラルタル海峡を挟んでモロッコだ。


ムーア人最後の拠点。イスラム文化専攻で、中でもキリスト教文化との融合が好きな私にとってグラナダは何もかもが好ましい。ロマン漂う建築を一日見て歩き、昼の熱気の残るバルでエビのカクテルを摘めば、なんとも濃厚な夜が更けていった。


ああ、エビを食べたいと思った。元来エビが好きだ。嬉しいことにスペインではどこで食べても美味しかった。マクドナルドにだってあった。エビ、エビ、エビだ! 記憶が駆け巡る。緑滴る町、葡萄棚の木陰、バルに繰り出してよく冷えたカヴァを飲みたくなった。


そんな妄想の末、週末の買出しに出かける。アースデーの日曜日、まずはホームセンターでオーガニックの土を買う。どかんと60リットルを2袋。野菜を育てるための5ガロン不織布ポットを満たすため。もちろん葡萄や薔薇の足元にも。


続いてスーパーへ。入って早々、アースデーだからと言いながら細身のシャベルを買う。本格的すぎない。なかなかいい感じだ。最後の一本だった。にんまりしながらカートにのせ、そこに食材も積んでいく。そういう土臭さもまたグラナダを思わせていい。


ラズベリーにアボカドに卵に生クリームに、あ、エビだ、エビを買わないと。冷凍コーナー、カクテルは目の前。だけどバルではない、我が家のディナー用だから手軽なむき身で。


トマトとセロリを入れてパスタにしよう。冷製でカッペリーニもいいけれど今夜は温かいフィットチーネ。カクテルはまた今度。涼しい風も吹き始めたし、初夏に向かうNYにはそんなエビが似合うような気がした。

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