第46話 美について、徒然なるままにカタツムリ
ふと観たクリスチャン・ディオールのファッションフィルム。2021年春夏オートクチュール。テーマはタロットカードの世界。
古城のような場所に迷い込んだ少女がカードの登場人物に出会う幻想的な世界は繊細な衣装はもちろんのこと、セットの色の美しさも秀逸で楽しめた。けれどモデルの動きと音が早すぎて私的には雑な感じが拭えない。あくまでも個人的な意見、こればかりは好き嫌いだと思うので、ハマる人はとことんハマると思う。
そして最近観たのは“本当のピノッキオ”。予告を見て衣装に一目惚れ、けれど映画館には間に合わずアマゾンプライムで。これまた色が美しく、特にカタツムリの出てくるシーンは何度も見返したくなるほど好きだと思った。やはり少々騒がしかったが、イタリアの監督ならではかと思ったり。
そんなこんなの昨日、2020-21秋冬オートクチュールコレクションフィルムを観た。ここでようやく色々と繋がる。監督名をチェックすれば全てマッテオ・ガローネ。ああ、好きすぎる、この人の色。
今回こそ私のドストライクだった。静けさ滑らかさが圧倒的。よって形態や色がさらに際立つ。まさに匂い立つような。そしてここでもカタツムリに釘付け。
特に好きな生物というわけではない。でも小宇宙を感じさせる形態は興味深い。実は先月、日本でヒグチユウコ展を鑑賞した際、なぜか心惹かれて、少女にカタツムリがあしらわれたキモかわいいポストカードを購入した。
カタツムリ、やっぱり好きなのか。強いて言えば美味しいとは思う。初めて食べたのはパリ。エスカルゴのオーブン焼き。スペインではアルハンブラ宮殿の庭のものを食べ損ねたことが心残りだった。しかしそこにはフォルムや色を楽しむ展開はない。
粘着質の上の透明感、緩慢な繊細さ、それは嫌悪を突き抜けた高貴さ。飽くなき食への探究心、淡白だからこそのめくるめく味わい。違う目的、違う印象、違う感想、だけどみんなカタツムリ。
近所のドイツ系スーパーではオードブルの冷凍を売っている。今夜はそれを食べつつ、幻想的世界について考えようか。淡く発光する殻の内に隠された秘密とは。そう、人とは残酷なものである。美も然り。静寂の夜にカタツムリで乾杯。
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