第10話 霧雨降る小川でごきげんよう

傘をさす程ではない、細かい霧雨に包まれたハイドパークを歩いていた日。早春の冷え込みはあったけれど、週末サッカークラブの少年たちの熱気が濡れた芝生の上、すぐそばをいく私にも伝わってきて悪くはなかった。


しばらくすると小さな橋が現れ、ふと川を覗いてみたくなった。袂に降りていけば、チロチロと流れる水。きっと凍る程に冷たいだろう。それでもどこか春の香りがして、私はしばしその流れを楽しんだ。それからおもむろに立ち上がり、そのまま一歩後ろへ下がれば、何かにとんとぶつかった。


”Oops! Excuse me!”


驚きつつも、反射的にそう口にして振り向く。相手は無言だった。川べりの私のすぐ後ろにいた……冷静に考えればおかしな話だ。けれど、目の前のこの状態はまぎれもない現実。


"Excuse me."


私はもう一度言ってみた。真っ黒な、つぶらな瞳が私を見ていた。霧雨降る早春の公園で見つめ合う私と……白鳥。


この美しきおとぎ話の鳥は思った以上に大きかった。ちょっとぶつかったくらいではビクもしない。そこにいた理由も、道を避けてくれない理由もわからないけれど、私はもう一度 "Excuse me." と断って彼/彼女の脇をすり抜けた。


橋に戻って見下ろせば、まだそこに立ったままの白鳥。けれどその姿は、「お茶の誘いでもすればよかったかなあ」そう思うほどに優雅だった。

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