第8話 きみはもしや闇の世界の住人だったのか

ダークサイドの華麗なる饗宴ハロウィン。老若男女が嬉々として装い、街中が怪しげな異世界に変化する夜。何度かこの日を繰り返すうち、あることに気がついた。


ほら、あそこに見える家。

これからパーティーなの。

よかったら出席してね。かわいい魔女さん。


その日も仮装ではなかった。私服だ。でもハロウィンなので色くらいはと、くすんだオレンジ色のロングワンピースに黒いブーツとボレロ。髪は三つ編みにして胸元に垂らしていた。


「はあ……」

「じゃあ、また後でね」


キュートなウインクを寄越し、ミニスカートのデビルは尻尾を揺らして行ってしまった。魔女って……メークなしホウキなし帽子なしなんですが。しかしその前年も……。


きみはドラキュラで、きみは忍者だな。

それできみは……ああ!

きみもわかりやすいな。魔女だよね?


やはり私服だった。心の中で「まじか!」と叫びつつ、曖昧に笑ったことを思い出す。魔女仕様……? 常から着ています。常からこうなんです。


確かに、青い肌のドラキュラや血まみれのゾンビに比べれば、魔女は人に近い。腰が曲がっていたり鼻が大きく長かったり、それなりに特徴があるものも多いけれど、許容範囲が広いと言うか。だけどだけど……なんとも複雑だ。これはもう、「私はダークサイドの住人だったんだ!」と開き直るしかない。


と言うわけで、それからは徹底して魔女。ミニスカートかわいい系から、ちょっとアレンジでシックな感じ、さらにはメディチ・カラーのマレフィセント風まで。


白雪姫の継母だよね?

日没後に、街角でばったり会いたくない!


継母ではなく養母ね。白雪姫ではなくオーロラ姫のね。と、細かいことはさておき、そのありがたい褒め言葉を最後に魔女は引退した。


ここ数年はみんなの衣装チェックだ。でもふと。魔女を始める前に、妖精の翅を背負って扉を開けたら「あ〜! フェアリー出てきた!」とキュートなリトルプリンセスが綺麗な瞳をうるうるさせてくれた日を懐かしく思い出し、ちょっと気分がのってきたので、せめてお気に入りの帽子くらいはかぶろうかと思う今日この頃。


帽子、それは魔女の帽子。……やっぱり、ダークサイド出身は揺るぎない決定事項らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る