第2話 麗しのヴァンパイアと花咲く路地を行く
ニューオーリンズに行ったのは6月だ。ニューヨークの気温が嘘みたいに上昇した日。みなさん、今日ニューオーリンズに行く意味あるんですかねえ。陽気なジェットブルーのクルーが冗談を言った。
だけどそんな心配は無用だった。その温度、湿度。到着したそこは、まさにニューオーリンズだった。
アイアンレースのバルコニーを見上げながらふらふらと街を行く。照りつける日差しの下、サルスベリが咲いていた。涼を求め、駆け込んだ老舗カフェでベニエをつまむ。
やがて、空が墨色に染まり始めた頃、フレンチクォーターで正装のヴァンパイアに出会った。白い肌に漆黒の髪。襟元の黒いリボンがなんとも印象的だ。彼の後ろには汗を拭うTシャツ姿のツアー客たち。この人たちはどこへ行くのだろう。すれ違いざま、ヴァンパイアが私を見つめ微笑んだ。昼の名残が陽炎みたいに揺れて、闇に溶けていった。
帰宅後、旅行を聞きつけた友人から郵便が届く。アン・ライスのヴァンパイア・クロニクルズ。置いてきたはずの幻想が追いかけてくる。
喧騒の中で食べたガンボ、夜空に飛び交うネックレス、ドアの隙間からはジャズ、静まり返った中庭に咲く花。そして麗しのヴァンパイア。
それで、今夜は一緒に来てくれるのかな?
花咲く路地を背に、時を超える貴公子は妖艶に笑った。
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