第3話 晩夏のフランスと花の刺繍のフラットシューズ

初めて行った外国はフランス。8月の終わり、パリを拠点にしたフランス革命記念ツアーに参加した。目玉は2日間のヴェルサイユ滞在。かつての貴族の館を改築したホテルに泊まるというイベントだった。



*そこでの怪異はこちら→短編”やってきた人”

kakuyomu.jp/works/16816452219128931508



そんなツアーを十二分に楽しんだ。宮殿の鏡の間のシャンデリアを呆けたように見上げたり、王妃の亡霊に遭遇しないかとプチ・トリアノンのホールで振り返ってみたり、革命時の手紙が残されているレストランで食事をしたり、オルセー美術館でただただ天井を見て半日を過ごしたり、モンマルトルの丘で鳩と正面衝突しそうになったり、凱旋門の階段を一気に登ったら息切れしたり、夜のバトー・ムッシュから輝くエッフェル塔を見たり……。


そして、その輝くエッフェル塔の一番上まで登ったら、展望台でシャンパンを開けたお誕生日グループに遭遇、一緒に乾杯となったり。あれもこれもそれも、まだまだ、たくさん……。


だけど何よりも鮮やかに思い出すのは、その時履いていた靴。黒い布のフラットシューズ。柔らかく足に馴染んで、どこまで歩いても足が痛くならない。花の刺繍がお気に入りだった。


残された写真の中、靴は晩夏のフランスによく似合って見える。甲の部分にある華やかなブーケが、アンティークのクッキー缶みたいにロココな雰囲気を漂わせていたからだろうか。そう、まさにのマッチング。そしてそんな花たちは、知らず旅の導き手になってくれていたのかもしれない。


いつまで履いたのか、その後どうしたのか、もう思い出せないけれど、気温がぐっと下がった8月末のフランスを想うとき、そこにはいつも花咲き誇る靴がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る