第12話 悠木玲奈③
何処をどう逃げたか分からない。
ただ、真っ直ぐ家に逃げ帰る事は躊躇われた。
無意識に、家とは反対方向に駆けていく。
そうして進行方向に男性が現れる度に、悠木玲奈は逃げる方向を変え続けた。
恐怖に怯える彼女の弱った精神には、出会う男性の全てが痴漢の男と同一人物に思えてしまった。
それから、何度も背後を振り返る。
直ぐにでも痴漢の男が追いついて来るんじゃないかと、怖くて怖くて気が気じゃ無かった。
だからだろうか、突然のクラクションに、悠木玲奈は現実に連れ戻される。気付いた時には大型のトラックが、もう目前に迫っていた。
頭が真っ白になる。
何の音も聞こえない静かな世界。
そんな中、何処からともなく、自分の名を呼ぶ男性の声が聞こえてきた。
悠木玲奈は声の方向に、ゆっくりと顔を向ける。
そこには必死に右腕を伸ばす、コンビニのお兄さんの姿があった。
な、なんでコンビニのお兄さんが⁉︎
悠木玲奈は目を見張る。
しかし直後に訪れるであろう自分の未来に、申し訳ない気持ちで一杯になった。
ああどうか、
気にしないでください。
貴方はただ、
この場に居合わせた、だけなのだから……
そうして悠木玲奈は、そっと静かに瞳を閉じた。
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