「え…全部、納豆⁉︎」

　落としたレジ袋から散らばった商品を見て、コンビニのお兄さんが驚いた声をあげる。

「ぎぃやあああああ！！！」

　悠木玲奈は、お兄さんが拾い集めてくれたレジ袋をむしり取ると、一目散に逃げ出した。

「馬鹿バカ馬鹿バカ、お母さんのバカあああ！　絶対お兄さんに、納豆女と思われたあああ！」

　学校帰りに急に買い物を頼んできた母親に、思い付く限りの罵声を浴びせる。

　それからどのくらい走ったか、突然背後から羽交い締めに襲われた。

　悠木玲奈は、一瞬でパニックに陥る。

　さらに口元を押さえられ、そのまま近くの路地へと連れ込まれた。

「れ、玲奈たん」

　湿気を含んだような男の声が、耳元で囁かれる。

「ぼ、僕という者がありながら、ど…どうして他の男なんかと…っ」

　身の毛もよだつ様な嫌悪感に、悠木玲奈の両目から涙の雫が溢れ出した。

「あ、あいつコンビニの店員だよね？　も、もしかしたら、玲奈たんのス…ストーカーじゃない？」

　背後から伝わる男の感触の悍（おぞ）ましさに、悠木玲奈は全身で暴れて抵抗する。

「れ、玲奈たんの事は、か…彼氏である僕が、必ず守ってあげる…がっ！」

　その瞬間、悠木玲奈のローファーの硬い踵（かかと）が、男の脛（すね）にクリーンヒットを喰らわせた。

　突然襲い掛かった衝撃に、男は思わず悠木玲奈を解放する。

　不意に自由を取り戻した悠木玲奈は、無我夢中で学生鞄とレジ袋を投げつけた。

　その一撃は男の頭部に命中し、男の身体をさらに背後の塀へと吹き飛ばす。

　ゆっくりと崩れ落ちていく男を背にして、悠木玲奈は脇目も振らずに駆け出した。

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