第10話 やはりその手は届かない

 どうやら必死だったのだろう。


 悠木玲奈の記憶は曖昧であった。


 何処をどうやって逃げたのか、何処で事故に遭ったのか、残念ながら覚えていない。


 しかし、覚えている事もある。


 事故の相手は大型トラック。となると、可能性が高いのは近くの大通りだ。


 大きな幹線道路を結ぶ国道である。片側一車線とはいえ、交通量は割と多い。


 加納勇助は大通りの歩道を走りながら、悠木玲奈の姿をひたすら探した。


 時間も場所も分からない。見つけ出すのは、かなりの困難が伴う。だからと言って、そのまま諦める訳にはいかない。


 地道な捜索が延々と続いた。ただ、逃げ出した位置関係からして、道路の反対側から飛び出す事は無い筈だ。


 加納勇助にとってそれだけが、数少ないせめてもの救いであった。


 そのとき加納勇助の背後から、地響きとともに大きな音が迫ってくる。振り返ると、大型のトラックが猛然と近付いてきていた。


 もしかしたらあのトラックが、玲奈ちゃんの言ってたトラックかもしれない。


 加納勇助は張り詰めた緊張感を伴って、再び視線を前方に戻す。


 その瞬間、角から飛び出してきたひとりの少女が、加納勇助の目前を通り過ぎた。


 セーラーカラーとスカートの裾をひるがえし、背後を気にしながら駆け抜ける。


 そのまま前方の赤信号に気付かずに、交差点へと飛び出した。


 加納勇助は、瞬時に全てを理解する。


 咄嗟に右手を伸ばすが、間に合わない。


「玲奈ちゃん、駄目だっ!!」


 轟音のようなクラクションとブレーキ音が鳴り響くなか、加納勇助は必死に声を張り上げた。

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