第4話 告白

 安アパートの男の一人暮らし、大きな姿見なんてここにしかない。


 加納勇助は洗面所へと椅子を運び込むと、ドッカと腰を落ち着けた。


「念のために聞くけど、君は俺の妄想か?」


「違います。私はここに居ます……って、やっぱり私が分かるんですか⁉︎」


「鏡越しならね」


 驚く少女に微笑みかける。


「だけど、さっきみたいに鏡から離れたら、全く分からなくなった」


「…そう、なんですね」


 加納勇助の返答に、少女は少し寂しそうな笑顔を浮かべた。


「だけど良かったです。こうして話せる方法があるって分かったんですから」


「…そうだね。だけど先ずは、はす子ちゃんの状況を教えて欲しい」


「その前に、ちょっといいですか?」


 少女がとても申し訳なさそうに、おずおずと右手を挙げる。


「ん、何?」


「その…『はす子ちゃん』って何ですか?」


「え⁉︎ まあその何だ…俺が勝手につけた、君のあだ名だよ」


「私の、あだ名?」


「うん。いつもコンビニで、同じ水を買ってくれるだろ? だから…」


「私の事、覚えててくれたんですか⁉︎」


「ああ、うんまあ…」


 客に目を付けてたなんて、ちょっと罪悪感にさいなまれる。


「やったあ、嬉しい!」


 すると少女が空中に浮かびながら、更に跳び上がる仕草を見せた。


「え⁉︎」


「私もお兄さんのこと、ちょっとイイナって思ってたんです」


「ええ⁉︎」


 思いもよらない告白に、加納勇助の頬が真っ赤に染まる。


「もし私が生きてたら、チャンスがあったかもしれないのに、悔しい!」


「……え⁉︎」


 思いもよらない告白は、更に思いもよらない言葉にかき消された。


「え、ちょっと待って。もし生きてたらって何?」


「ああ私、たぶん死んでるんです」


「え…えええええ⁉︎」


 大きく仰け反った加納勇助は、椅子ごと背後に倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る