第3話 鏡の中の少女

「もしもーし、聞こえてますかー?」


 悠木玲奈は、コンビニのお兄さんの目の前で、ひらひらと右手を振ってみる。


 しかしお兄さんは、頭を抱えたまま、何の反応も示さない。


「やっぱり、聞こえてないのかなあ?」


 諦めて右手を引っ込めると、膝を抱えて、空中で体育座りの姿勢になる。


「一瞬、目があった気がしたんだけどな…」


 そうして彼女は寂しそうに、ボソッと小声で呟いた。


 ~~~


 いや、聞こえてる。聴こえてますよ!


 だからヤバいんだって事だろおおお!


 加納勇助の脳内は、身体に反比例してフルスロットルで回転しまくる。


(もしかして俺、こじらせ過ぎて、脳内に彼女を生み出しちゃった⁉︎)


 頭を抱えて苦悶していると、鏡の中の少女がスッと離れた。


 そのまま体育座りの姿勢で、とても悲しそうに宙を漂う。


 その姿を確認した途端、


 加納勇助は自分の両頬を、両手で思い切り引っ叩いた。


「聞こえてるよ」


 それからハッキリと口に出す。


「……え?」


「だから聴こえてるよ、はす子ちゃん!」


 覚悟を決めた表情で、真っ直ぐに鏡越しの少女を見つめ続けた。

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