　加納勇助（かのうゆうすけ）は目を覚ました。

　時刻は既にお昼前。

　朝方までのバイトを終え、そこからベッドに潜り込んだ。

　大学の講義は昼からなので、今からでも充分に間に合う時間である。

　加納勇助はむくりと起き上がり、洗面所へと足を運んだ。眠気覚ましに顔を洗い、ツーブロックの髪を手櫛で整える。

　そのとき鏡に映る自分の横に、セーラー服姿の少女が映っているのに気が付いた。

　肩口で切り揃えられた黒い髪、左耳の上にヘアピンを留めたその姿は…

　慌てて背後に振り返る。しかしそこには、誰もいない。

「ハハ…寝惚けてんな。はす子ちゃんの幻覚を見ちまった」

　加納勇助は頭を掻いて、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。それから鏡に向き直ると、

「はす子ちゃんって、誰ですか？」

　鏡の中の少女は、確かにそう口にした。

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