EP5 氷棺の魔導書(3)
17歳になったヒト族の少年ハトリは、再びウィドツィエの森へと現れた。
背はずっと伸び、フローマリをスッと見下ろすほどだ。180cmほどだろうか。
3年の間にさらなる成長を果たしたハトリは、ヒト族の魔法の学校でも特に優秀な成績だそうだ。
未熟とは言えない程に成長した彼の氷魔法は、森での勉強の50年に相当するほどだ。しかし、永遠の氷棺とはまだほど遠い。
少年は暫く母親の墓標を見つめた後、「また3年後に」と言って森から立ち去った。
フローマリは彼と少し言葉を交わした。人族の町での事。魔法の学校の事。
氷魔法の勉強の事。森で暮らす氷魔法を使うエルフ族の噂の事などを
ハトリとフローマリの関係は、なんと表現すれば良いだろうか。
たまたま母の墓標を作ったエルフと、森で母をゴブリンに殺されたヒト族。
ただ、その墓標を永遠のものにするために、氷魔法を極めんとするエルフとヒト。
いや、その目的は元々ハトリだけのものだった。
しかし、いつの間にかフローマリ自身も、この氷棺の魔法を完成させるべく、過去の書物を読み漁り、研究していた。
そして、3年、また3年後、と。
ハトリは森を訪れ、氷棺を凍らせ続けた。
フローマリもまた、彼の様子を見守りながら、時を過ごした。
12年。
ハトリは29歳になっていた。
すっかり逞しい青年となった彼は、氷魔法の冒険者として、近隣では名の知れた男になっていた。
この時、一度ハトリはフローマリを、森の外への冒険へと誘った事があった。
しかし、フローマリは森を出る事を承諾しなかった。
その後も、3年、また3年後、ハトリは森へと通った。
ヒト族の間では氷魔法の第一人者として名を馳せ、冒険者としても十分すぎるほどの力を身に着けたハトリだったが、それでも永遠の氷棺は完成しなかった。
そして、やがて彼の才能はピークを過ぎた。
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