初恋のキミは
@INU-KURO
第1話 出会い
あれは4歳の頃。
家族で遠出をして、海水浴に出掛けた。
当時の俺は母さんカットにより、強制丸坊主。
お出掛けの際は帽子が手放せなかった。
だってこの時代、坊主なんて笑われる。
ましてや知らない土地に遊びに来て、からかってくる輩がいないとも限らない。
帽子を握りしめて父さんの運転する車を降りると、そこは白い砂浜の広がる海だった。
ラッシュガードを着て早速海に足を浸ける。
暑い日射しが和らぐほど冷たい。
母さんはパラソルを組み立てるので、父さんとしばらく泳いだ。
青い海、白い砂浜、まるでリゾートのような景色に見とれながら、海に潜ってみたり泳いでみたりした。
昼ですよ、と母さんが呼ぶのでパラソルの下へ。
すかさず帽子を被る俺を父さんが笑う。
「タクミは本当に坊主が嫌なんだな。洗いやすくていいだろう?」
子供の心、親知らず。
「だって母さん、バリカンしか使えないんだもの。我慢なさいよ。」
母さんもこの調子。
文句を言いながらも昼食を食べ終え、俺は海岸の散策に出ることにした。
あちこち家族連れで海の家も賑わっている。
波打ち際に、女の子が砂遊びをしているのを見かけた。
赤いラッシュガード、クルクルの髪の毛、日焼けした肌。俺と同じ年くらいだろうか?
そんなことを考えていたら、突然強い風が吹いた。
目に砂が入り、うずくまって目を擦った。
帽子が落ちてしまったが、それどころじゃない。
涙を流しながら目を擦り続けていると、先ほどの女の子がハンカチを差し出した。
「水で洗って擦らない方がいいよ。これで拭いて。」
ありがたくハンカチを借りて水道に行き、目を洗うとすっかり良くなった。
お礼とハンカチを返そうと再び女の子の方へ行くと、俺の落とした帽子を彼女が持っていた。
つまり俺の頭はくりくり丸坊主剥き出し。
恥ずかしい!
でもお礼は言わなくては...
俺はからかわれる覚悟で彼女の元へ向かった。
「ハンカチありがとう。お陰で目も痛くない。」
彼女はハンカチを受け取るとにっこり笑って言った。
「地元じゃないでしょ?海の近くの子は慣れてるから。どこから来たの?」
東京と答えると彼女は、千葉の海は綺麗でしょ、と誇らしげに言った。
あ、そうだ、と彼女が帽子を俺に返してくれた。
急いでそれを被ると、彼女が不思議そうに首を傾げる。
「母さんに無理矢理坊主にされてるけど、本当は嫌なんだ。からかわれるし。」
早口で言うと彼女は笑って言った。
「かっこいいよ!隠さなくてもリョウは好き!」
「リョウ?」
「涼しいって書いてリョウ。その髪似合ってる。」
そう言って微笑む彼女に、心臓を鷲掴みにされたような、電気が走ったような感覚に襲われた。
俺の坊主がかっこよくて好き...。
今までそんな風に言われたことはなかった。
彼女は、涼ちゃんは、唯一俺を肯定してくれた。
にっこり笑う口元の、整った歯が眩しい。
ああ、これが初恋なんだ、と思った。
「涼ちゃん、将来俺と結婚してくれる?」
若さがゆえの告白を知らない俺は、全てをすっ飛ばしてプロポーズしていた。
これは違うぞ、何かおかしいんじゃないか、そう思い始めた頃に涼ちゃんはとびきりの笑顔で頷いた。
「うん、いいよ!約束!絶対結婚してね!指切り!」
小指を絡ませ、幼い約束を真剣に唱えた。
もう少し話そうとしていたら、父さんが迎えに来た。
「タクミ、渋滞するからそろそろ帰るぞ。」
俺は涼ちゃんに、将来絶対迎えに来るからと告げて手を振った。
初恋のキミは @INU-KURO
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。初恋のキミはの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます