終わりへのドライブ

***2月27日 AM 1:16***



「お疲れ様です」

みんなに挨拶しながら店を出る。

「はぁ」

はいた息が白くなり、空に消えていく。

それを見ながら私はちょっとしんみりする。

ただでさえ寒いのに、自分の誕生日の予定が仕事のみ。

寒すぎる。


♪~♪~♪~


そんな時、携帯が鳴った。

携帯を見ると相手は友達の淳だった。

「はい」

「もしもし?お疲れ。今終わったの?」

こんな時間まで淳が起きてるなんてどしたんだろ?

「そうだけど。どうしたの?」

「あぁ……えっと」

淳はいつもこうなんだよなぁ。

言いたいことあるならはっきり言えばいいのに。

「なに?」

「今からドライブ行かない?」

今からドライブ!?

どこ行くつもりなんだろ?

明日も仕事だしなぁ。

でも、もしかしたらこれは淳なりの優しさなのかな?

私の誕生日ってわかってるのかな?

そんなはず無いか。

でも、久しぶりに淳と出かけるのもいいかな。

「明日も仕事だから、あんまり遅くならないなら行くよ」

私って素直じゃないのかな?

「わかった。じゃぁ、今から店まで迎えに行くから待ってて?」

店まで!?

この寒空の下、ここで待ってるのはいくらなんでもきついから。

「あのさ、華澄のいるコンビニわかるでしょ?そこで待ち合わせにしない?」

華澄というのは、淳と共通の友達で、近くのコンビニでバイトしている子。

このコンビニに行くのは私の毎日の日課なのだ。

「うん、いいよ。じゃぁ今から向かうね」

そういって淳は電話を切った。

さて、私も向かうか。



***1:27***



「遅い!!」

店に入るなり、りこのちょっとふざけた感じの声が僕に向かって飛んできた。

「ごめん。飛ばしてきたつもりなんだけど」

僕はりこに近づきながら言った。

「冗談。行こうか?」

りこは読んでいた雑誌を置きながら笑った。

僕はりこより先に車に向かい、ドアを開けた。

「どうぞ姫」

僕がどこぞの執事みたいにすると、りこは笑いながら店の外へ出てきた。



「ドライブってどこに行くの?」

私は車に乗り込みながら聞いた。

「そうだなぁ。どこがいいかな?」

決めてないのにドライブに誘ったのか。

淳らしいといったら淳らしいか。

「どこか行きたい所ある?」

淳は車をバックさせながら私に聞いた。

行きたいところねぇ。

「淳のお勧めのところないの?」

「おすすめ?」

淳は運転しながら考えているようだった。

「あっ!!」

どうやら思いついたらしい。

「海とかは?1時間くらいでいけるし」

海!?

う~ん。

海かぁ。

「やだ?」

信号で止まったところで淳が私の顔を覗き込んできた。

「じゃぁ星見に行く?」

淳が首をかしげた。

そのしぐさがちょっとかわいかったりする。

でも、もうちょっと男らしくなってもいい気がするけど。

「りこ?海と星どっちがいい?りこが決めていいよ」

淳はにっこりと微笑んだ。

海と星かぁ。

どっちがいいかなぁ。

海も捨てがたいけど、真冬の海はなぁ。



「星見に行きたいかな」

りこが少し微笑みながら言った。

りこは自然のものが好きなのを僕は知っている。

だから、二人で遊びに行くときはいつもドライブが多かったりする。

「星だね。わかった。すごくきれいに見えるところ知ってるんだ。りこも絶対気に入ると思うよ」

僕は自身ありげに話した。

僕の態度を見て、りこが鼻で笑う。

「りこ、今鼻で笑ったでしょ!?」

僕が言うと、りこは外を眺めながら

「笑ってないよぉ」

という。

でも、窓に映るりこの顔は笑っていた。


僕とりこはドライブを楽しんでいた。

りこの仕事の愚痴を聞いたり、僕の仕事の話をしたり。

りこといるのはとても居心地がいい。この感覚が僕はとても好きだ。


「あっ!!」

淳が急に何かを思い出したように指を刺した。

その先には一軒の家が建っていた。

「どしたの?」

「あの家の話、知ってる?」

淳が急に真剣な顔で話し出した。

「知らないけど……あの家がどうしたの?」

淳は不安そうな私の顔を見た後、ゆっくりと話し始めた。

「前に先輩に聞いた話なんだけどね」

「うん」

「あの家は昔、娘と両親の三人暮らしだったんだ。でも、強盗に入られて3人とも殺されちゃったんだって。だけど、なぜか娘の死体だけはまだ見つかってないんだって……。だから未だに両親は娘を探してるらしいよ……。」

淳のバカ。

私この手の話は苦手なのに。

「りこ?……あっ!ごめん!!りこはこういうの苦手なんだっけ」

淳は慌てた様子で何度も私に謝ってきた。

「もう聞いちゃったからいいよ。そのかわり、あとで何かご馳走してもらうからね」

私はちょっとふざけた感じで淳の腕を軽くはたいた。

「ほんとにごめんね!!おわびにご馳走させていただきます」

淳は本当に申し訳なさそうにしていた。

わざとじゃなさそうだし許してあげるか。



***2:03***



「お腹すいたかも。」

私は自分のお腹をさすりながら言った。

そういえば、いつもならもうご飯食べてる時間だもんなぁ……そりゃお腹すくわ。

「どこか寄ろうか?」

淳が前と私を交互に見ながら訪ねてきた。

「うぅん……どうしようかな……」

その時、目の前の交差点の先にファミレスの看板を見つけた。

淳もほぼ同時に見つけたようだった。

「ファミレスあるけど、行く?僕はそんなにお腹すいてないからりこに任せるよ」

淳は少し微笑みながら言った。

確かにお腹はすいてるんだよなぁ。

「行く!なんか食べたい」

私がそう言うと

「わかった」

と一言言って淳は車をファミレスの駐車場に停めた。



「いらっしゃいませ」

店員さんが笑顔で迎えてくれる。

こういうところの店員さんって本当に大変だと思う。

僕は飲食店とかで働いたことはないけど、りこの話を聞いてると本当に大変なんだと感じる。

まぁ、簡単な仕事って言うのはないんだろうけど。

「おタバコはお吸いになりますか?」

「はい」

店員さんの質問にりこが返事をする。

「では、こちらへどうぞ」

店員さんがにっこり笑って僕たちを席へ案内する。

さすがにこの時間は僕たちだけみたいだな。

「どうぞ」

店員さんは僕たち二人分のイスをひいてくれた。

りこはそこにお礼を言いながら座る。

一緒にご飯を食べに行ったりするとりこはいつも店員さんにお礼を言う。

きっと自分と同じ職種だから気持ちがわかるんだろうな。

「お決まりになりましたらおよび下さい」

そう言って店員さんは下がっていった。

「はぁ」

りこはため息をつくと、メニューを開くより先にタバコを吸い始めた。

お腹すいてたんじゃないのかな?

「りこ?何食べるの?」

僕がメニューを開いてりこの前に出すと、りこはくわえタバコでメニューをピラピラめくった。

りこってどこか男っぽいっていうか、面どくさがりって言うか……。

「これ。オムライス」

りこは独り言のように言うとベルを鳴らした。

「はい、お客様」

「えっと、オムライスと、淳はホットコーヒーでいい?」

りこは僕の顔を見ながら聞いた。

僕がいつも飲んでいるものを覚えているのだ。

「うん」

「じゃぁ、ホットコーヒーと、私は……ウーロン茶」

メニューから目を離さずにりこが店員さんに言う。

「はい、かしこまりました」

店員さんは軽く僕たちに会釈をして下がっていった。



私はご飯を食べ終え一服していた。

その時、他にもう一組お客さんがいることに気がついた。

でもあのお客さん何か変だな……ずっとウロウロして。

探し物かな?

「どうしたの?」

淳のほうを振り返ると淳が少し不思議そうな顔をしていた。

「ん?あそこのお客さんがずっとウロウロしてるから、何してるのかなぁと思って」

私の言葉を聞いて淳がより一層不思議そうな顔をした。

「お客さん?どこに?」

淳は周りをキョロキョロする。

「あそこ。一番奥の窓際のところ」

私はもう一組のお客を指差した。

しかし淳はまだ不思議そうな顔をしていた。

「お客さんなんていないよ?僕たちが入ってきたとき誰もいなかったし、僕たちの後も誰も入ってきてないと思うよ?」

いや、あそこにいるし。

たぶん見た感じ夫婦か……不倫かな。

「いや、いるから。淳目が悪くなったにもほどがあるよ」

私が笑いながらいうと、淳の顔が少し強張った。

「りこ、もう出ようか」

淳は私の荷物を持ってそそくさとレジのほうへ向かった。

あそこにいるのになぁ。


「お会計、1578円になります」

僕はお尻のポケットから財布を出し、2000円を出した。

「あつ!私出すよ。淳食べてないんだし」

りこが僕の持ってるバックから財布を出そうとする。

「いいよ。誘ったの僕だし、ここは僕が出すよ」

僕はおつりをもらいながら言った。

「そう?ありがと」

りこはにっこり笑う。

かわいい。

「そうだ」

りこが何かを思い出したように店員さんの方に向き直る。

「私たちのほかにもう一組いますよね?男女のカップルが」

その話を聞いた店員はとても不思議そうな顔をしていた。

「……いえ、お客様だけですが……」

「うぅん……確かにいたんだけどなぁ」

りこはなんだか納得いかない様子だ。



***2:36***



「ここだよ」

淳は山頂の駐車場に車を停めた。

「空見てみてよ」

淳は微笑みながらいう。

「わぁぁぁ」

それは想像していた以上だった。

星座はもちろん小さな星まですごく綺麗に見える。

あまりに綺麗で声も出ない。

私は今まで何度も星を見に行ったけど、きっと今まで見てきた中で一番綺麗だ。

ダイヤをいっぱい散りばめたみたい。

「どう?綺麗でしょ?」

淳が嬉しそうな声で言う。

「りこに見せてあげたかったんだ」

淳は少し照れたように言った。

「すごく綺麗……ありがとう。何か誕生日プレゼントもらったみたい」

私は淳のほうを向きながら言った。

「だから言ったでしょ?絶対気に入るって」

淳はまた自信ありげに言った。

「うん。気に入った。また来たいと思うもん」

そう言ってまた空を見上げた。

ホントに綺麗……疲れなんてどこかに飛んでいっちゃうな。

「外出て見る?」

淳がエンジンを止めながら聞く。

さすがに外に出るのは寒いよね。ここ、山のてっぺんだし。

「大丈夫。窓から十分見えてるし」

「そっか」

淳の返事は心なしかがっかりした様に聞こえたけど……風邪はひきたくないので遠慮させてもらおう。



りこは窓から星を見上げている。

僕的には外で見てもっと感動して欲しかったんだけどな。

でも、喜んでくれてるから良いとしよう。

車の中で見てたほうがプレゼントも渡しやすいかもしれないし。

僕は今日のためにりこへのプレゼントを用意してきたんだ。

ずっと欲しがってたピアス。

きっと喜んでくれるはずだ。

何気に高かったし。

「あっ・・・」

りこが急に声を上げた。

「どしたの?」

僕が聞くとりこは来た方向とは逆にある森のほうを指差した。

「あそこがどうかしたの?」

「女の子がいる」

女の子!?

こんな真夜中に……こんな山奥にに女の子なんているはずがない。

もう夜中の3時だ。

それに、りこが指差すほうを見ても女の子なんてどこにもいない。

「女の子なんていないよ?気のせいじゃない?」

僕はりこの肩を掴み、こっちを向かせようとした。

しかしりこは僕の手を振り払い外へ出た。

「あそこにいるんだってば。私ちょっと行ってくる」

りこはそう言って歩きだした。

女の子なんて僕には見えない。

て言うかいない。

今日のりこは何か変だ。

「りこ!!」

僕はりこを追いかけようとドアに手をかけた。

その時、なんだかものすごい寒気に襲われた。

「なんだろう……気持ち悪い……」

だが、今はそれどころじゃない。

早くりこを追いかけないと!

再びドアを開けようとしたとき、手に冷たい感触が……。

よく目を凝らしてみると何かいる……。

それは僕の足元の方からどんどん這い上がってくる。

「ふふふ……」

それは頭から血を流した幼い少女だった。

錯乱した僕は慌てて車から出ようとした。

しかし、ドアが開かない。

「りこ!!!」

ドアの窓を叩き、必死に助けを呼ぶが、りこの姿はもう見えない。

「ふふふ……」

血まみれの少女はもう僕の肩に手をかけている。

「お兄ちゃん……遊ぼう……?」



「待って!」

私は必死で追いかけるが、女の子はどんどん先に進んでいく。

もう追いついても良いような気がするんだけど……。

もうどれ位来たんだろう?

淳心配してるだろうな……。

でも、こんなところにあの子一人置いてくわけにもいかないよ。

「ねぇ、待ってって!お家まで送ってあげるから!」

その時、体が浮かんでいる感触に襲われた。

森の中は月明かりが届かないせいか暗くて何も見えない。

でも、今確かに私の足は地に付いていない。

むしろ、頭から落ちてるような気がする。

……だんだん意識が遠のいてきた……。


グシャッ!!!


「ふふふ……一緒に逝こう……?」


                   

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