歪んだ願い

彼女が俺の店に入ってきたのは、今から2年くらい前のことだった。

見た目はそれなりに可愛いのに、性格が男っぽいというか、サバサバしてるというか……。

でも、そんなところが俺のツボにはまった。

誰でも湧け隔て無く接する彼女は、実年齢よりも落ち着いていた。

10歳近く下なのに、俺よりしっかりしているところがある。

俺はそんな彼女に惹かれていった。

しかし、彼女には気になる奴がいるらしい。

何度か店に飲みに来たことがあるアイツだ。

そいつも彼女のことが好きらしいが、お互い一歩を踏み出せないみたいだった。

そんな二人のやり取りを見ていても、俺の気持ちは変わらなかった。

「彼女が欲しい」

そして俺はそれを行動に移すことにした。



***8月18日 AM1:30***



「じゃ、お先でぇす」

私服に着替えたりこは俺に挨拶をした。

「おっ。お疲れ」

俺は、仕事の手を止め、彼女に近づいていく。

「お前、これから家帰るのか?」

俺が聞くと、彼女は首を傾げた。

「そうですけど、何かあるんですか?」

りこは人と話すとき、いつも目を見て離す。

それはわかってるけど、あまりにもまっすぐ見つめられるので、少し照れる。

「あ、いや。もし暇なら飯でも行こうかと思って。どうだ?」

俺の話を聞くと彼女はニッコリ笑った。

「ぜひ!もちろん店長のおごりですよね?」

彼女は俺の顔を覗き込む。

「あぁ。好きなもん食わせてやる」

それを聞くと、彼女は満面の笑みで笑った。

「やった!肉食べたいでぇす!!」

この無邪気さがたまんない……。

「じゃぁ、少し座って待ってろ」

俺はそう言ってりこの頭を撫でる。

「はぁい!」

元気に返事をすると、彼女は客席に腰を下ろした。



***1:57***



「待たせて悪いな」

着替えを済ませ、りこに歩み寄る。

「お腹空きました」

りこはお腹を擦りながら言った。

「悪い。じゃ、行こうか?」

「はぁい」

そして俺達は近くの焼肉屋に向かった。



***2:41***



「おいしぃ!!」

りこは幸せそうな顔をしながら、カルビを食べた。

「お前うまそうに食うなぁ」

見ている俺まで幸せになるな……。

「だっておいしいんですもん。食べてるときが一番幸せかも」

彼女は話しながらも黙々と肉を焼いていく。

「それにしても、お前よく食うな」

そう。

彼女はすでにカルビ2人前を軽く平らげているのだ。

「食べることに命かけてますから!」

りこは少しまじめな顔をして言った。

「はいはい」

俺は少し呆れたような顔をした。

「店長、反応冷たい!!」

彼女は頬を少し膨らませた。

何かこうしてると付き合ってるみたいだな……。

「俺は好きな女にしか優しくしないの」

そう言ってタバコに火をつける。

「いいですよぉ。どうせ彼氏いないですからぁ」

りこはそう言うと、また黙々とカルビを食べ始めた。

「はいはい。ぐれないで。お前にも優しくしてやるから」

俺はりこの頭をポンと叩く。

「店長もしかして……私のこと好き!?」

りこは明らかに冗談とわかるような言い方をした。

俺的には冗談じゃないんだけど……。

「俺は女の子はみんな好きだよ」

俺はあえて冗談で返した。

「うわ!爆弾発言だ!!」

彼女は笑いながら、言った。


それからも何度かりこと二人で食事に行った。

飲みにも行った。

しかし、男女の関係に発展するようなことは一切無かった。

あまりに無防備すぎる彼女に、いまいちペースを掴めないでいた。



***2月27日 AM1:20***



俺は今日、りこを飲みに誘おうと決めていた。

なぜなら、今日は彼女の誕生日だからだ。

今日こそは、何かしらの発展をさせたいと思っていた。

しかし……

「ごめんなさい。今日は用事があるんです」

誘いを断られてしまったのだ。

俺ががっかりしながら店の鍵を閉めていると、後ろから声をかけられた。

「あの……店長さんですよね?」

振り返ると、そこには綺麗な女の人が立っていた。

「はい。そうですが」

俺が答えると、彼女はニッコリ笑った。

「あの、私、相沢良子と言います。いつもここのお店を利用させてもらってるんです」

彼女は落ち着かない様子だ。

「それで……いつも店長さんのこと見てて、一度お話させてもらいたいなと思ってたんです」

どうやら俺は告白されているらしい。

しかも、りこの誕生日に、りこと同じ名前の女から。

「そうなんですか。それはありがとうございます」

俺は笑顔で返す。

「あの……もし良かったら、これから一緒にお食事なんていかがですか……?」

彼女はとても不安そうな顔で俺を見つめる。

「いいですね」

俺がニッコリ笑うと、彼女は嬉しそうな顔をした。

「ありがとうございます」

彼女は深々と俺に頭を下げた。

「俺の行きつけの居酒屋があるんですけど、そこでいいですか?」

俺が聞くと、彼女は笑顔でうなずいた。



***1:31***



「あの……」

居酒屋から5分位歩いたところで、彼女が俺に声をかけてきた。

「この辺って……住宅街ですけど……」

彼女の顔は不安に満ちていた。

「こっちですよ」

俺は彼女の問いには答えず、彼女を路地裏に引き込んだ。

「キャッ!」

彼女は少し驚いた様子だったが、俺が抱きしめると俺に体を預けた。

しばらくして、彼女の顔を見ると幸せそうな顔をしていた。

「……」

俺は彼女のあごに手をかけ、上を向かせた。

すると彼女は何かを察したのか、静かに目を閉じた。

俺は彼女の唇に、触れるくらいのキスをした。

でも……何かが違う……。

彼女は……りこは、こんなに簡単に体を許したりしない……。

「あの……」

恥かしそうに俺に声をかける彼女。

俺はその唇をさっきよりも深いキスで塞ぐ。

彼女はうっとりした顔をして俺のキスを受け止めている。

「……」

りこと同じ名前なんて……。

こんな女には似合わない。

気持ち悪い。

「ん!!」

俺は女にナイフを突き立てた。

このナイフだって、りこのために使おうと思ってたのに……。

こんなやつに汚されるなんてありえない。

「な……んで……?」

女は目に涙をためて俺にしがみ付く。

「気持ち悪いんだよ」


ドサッ


俺は女を突き飛ばした。

それと同時に、ナイフが女の体から抜け、血が辺りに飛び散る。

「はぁ……服汚れたじゃん……」

冷たい目で女を見る。

女は痛みで何も言えない。

「ふん……」

俺は死にかけの女を残し、その場をあとにした。



***1:40***



ドンッ


しばらく歩いていると女にぶつかった。

「キャッ!!」

この声……もしかして。

俺がぶつかった女を見ると、女も俺を見た。

「店長……」

やっぱり……りこだ。

りこは何だかホッとしていた。

が、すぐに何かを思い出したようで、俺に駆け寄ってきた。

「店長!あっちで女の人が……」

りこは立ち止まり、俺のことをじっと見つめる。

「ん?どした?」

俺はりこに近づく。

「!!」

りこの顔色が変わる。

「女の人がどうしたって?」

俺は構わずりこに近づく。

しかし、りこは走って逃げていってしまった。

何でだ?

「あぁ……」

自分の服を見て納得した。

そうだ……さっきあの女のせいで服汚れたんだっけ……。

ちっ…どこまでも邪魔な女だな。

でも、ばれちゃったなら仕方ないか……。

その分、後で楽しめばいい……。

俺はにやけそうになる口元を押さえながら、りこの後を追った。



***1:47***



少し歩くと、りこが公園に入っていくのを見つけた。

そっか……かくれんぼがしたいのか……。

そんなに俺と楽しみたいのか……。

「りこ?」

公園に入ると、俺はりこを呼んだ。

もちろん返事は無い。

そのほうが面白いけどな……。

「りこ?どこにいるんだ?」

辺りを見回すが、りこの姿は無い。

高ぶる気持ちを抑え、隠れられそうな場所を探す。

しかし、意外にも早く見つけることができた。

「ここにいたのか……」

りこは怯えた顔をして固まっている。

その顔がまた俺に興奮を与えてくれる。

俺はりこをその場に押し倒した。

「いや!!」

りこの声が公園に響き渡る。

いつ誰が来るかわからないこの状況もいいね……。

最高だ。

「残念だな……」

俺は優しくりこの首に手をかける。

力を入れたらすぐに折れてしまいそうな首。

たまんないな……。

「お前のこと気に入ってたのに……」

少しずつ手に力を込める。

それと比例して、りこの顔が歪んでいく。

その顔がまたそそる。

「こんなとこ見られたら」

りこは俺を睨み付ける。

だが、その目がいい……。

今すぐ遊んでやりたいな……。

「殺すしかないじゃないか」

その言葉を聞くとりこは必死に抵抗を始めた。

無駄なのに……。

でも……

「そういう風に抵抗するところも……たまんないな……」

りこはより一層抵抗をする。

俺を興奮させるだけなのに。

「いたっ!」

その時、目に痛みが走った。

それと同時に俺は突き飛ばされた。

どうやら砂をかけられたらしい。

りこの走っていく足音が聞こえる。

……そうか……。

もっと楽しませてくれるのか……。

いいよ……。

最後まで付き合うよ……。



***2:03***



俺がりこの家に行くと、すでに誰かがいた。

そいつは、りこの家のドアを必死に叩いている。

「あいつは……」

確か、りこが気になっていたやつだ。

あんな貧弱な奴が好きだなんて……りこも男を見る目が無いな。

そう思って見ていると、部屋からりこが出てきた。

「いやぁ!!!」

りこの悲鳴がこだまする。

と同時に、男が殴られる。

カワイソウニ……イタイダロウナァ。

「いやぁぁぁぁ!!!」

再びりこの叫び声が響く。

あの必死な顔もいいな……。

それにあの叫び声もいいね……。

興奮しすぎておかしくなりそうだ。

しばらくすると、男は動かなくなった。

そして、りこは男の体を揺らしている。

あぁ……逝っちゃったかな?

じゃぁ、次は俺の番かな。

俺はりこたちに近づいていく。

だが、りこは俺に気づいていない。

やっぱり男は逝っちゃったみたいだな。

ぐったりしてるし。

「くく……逝ってらっしゃい……」

俺は思わず笑っていた。

その声で俺の存在に気づいたりこは物凄い顔をして俺を見る。

「その顔……たまんないね……」

りこはそのまま動けずにいた。

俺はりこを抱き上げた。

「いや!!放して!!」

りこは必死に抵抗するが、まったく意味が無い。

可愛い……。

これからもっと楽しもうね。

りこ……。


ガシャンッ


「お誕生日……おめでとう……」

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