報われない願い

***2月27日 1:18***



「ふぅ……」

明日から長い正月休み。

寝るのがもったいないような気がして僕は未だ起きていた。

だからといって何かしているわけではない。

ただぼ~っとテレビを見ているだけだ。

「ん~……あ……」

伸びをして横になった僕の目が捕らえたのは、もうすぐ1時半をさす時計だった。

「……りこ、仕事終わるかな?」

僕はベットの上においてある携帯に手を伸ばした。

「……」

どうしよう……。

画面を見つめたまま考える。

誘ったとしてどこ行こう?

というか、一緒に行ってくれるだろうか?

色んな考えが頭の中を駆け巡る。

……いつまでも携帯とにらめっこしててもしょうがないしな……。

でも……悩むなぁ……。

断られたら切ないし……やめとこう。

僕は昔からこうだ。

優柔不断な上に出す結論はいつもマイナス。

りこにも何度か言われたことがある。

努力はしてるんだけど……直らないんだよね……。

確かにりこには会いたいけど、仕事忙しいって言ってたし、きっと疲れてるだろうし、明日も仕事だから……。

「はぁ……」

一生懸命言い訳して何になるんだろ。

バカみたいだ。



***1:24***



♪~♪~♪~


「わっ!!」

どうやら知らないうちにウトウトしていたらしい。

手元の携帯が急になったので、僕は驚いて携帯を投げてしまった。

我ながら情けない……。

携帯を拾い上げ画面を見ると、友達の架からだった。

こんな時間になんだろう?

……出るのめんどくさいな……。

しかたない。

でるか。

「もしもし?」

『よぉ。今お前何してんの?』

架は僕の高校からの友達だ。

僕とは正反対で男って感じの性格だ。

そのせいか、僕らは相性が良いらしく、一番仲が良い。

いろんなことを相談したり、されたりする。

僕のが相談することは多いけど。

「家にいるけど?」

『一人?』

架はなんだかワクワクしてるような話し振りだった。

「一人だけど?」

僕が言うと架はため息をついた。

『お前さぁ……今日涼子ちゃんの誕生日だろ?デートくらい誘えよ。もう仕事も終わってんじゃん?』

どうやら冷やかそうと思って電話をしてきたらしい。

でも、一人でいる僕にがっかりって感じかな。

「誘おうと思ったけど、断られたら切ないからやめた」

電話の向こうから何とも言えない空気が漂ってくる。

『女みたいなこと言ってんなよ。年に1度の涼子ちゃんの誕生日だぞ?その記念日にお前との大切な思い出を残そうとは思わないのか?確か去年のクリスマスもお前おんなじ言い訳してたぞ?』

架は呆れているようだ。

確かに、去年のクリスマスも誘おうと思いつつも、勇気がでず誘えなかった……。

僕、何してんだろ……?

「言ってたかも……」

『そんなことしてっと知らない男に涼子ちゃん取られるぞ。じゃぁな』

架はそう言うと一方的に電話を切った。

他の男に取られるのは嫌だ。

りこの側にいるのはいつまでも僕でありたい!!!

「よし!」

決めた。

りこに会いに行くことにしよう。

会いに行く分にはいいよね?

少し顔見て帰ってくればいいし、せっかくりこのために用意した物も渡したいし。

僕は私服に着替え、コートと車の鍵を持って部屋を出た。



「淳?こんな時間にどこ行くの?」

居間の前を通ると、母親が僕を呼び止めた。

まだ起きてたの!?

なんでこういう日に限って起きてるんだ……。

「淳?」

母がもう一度僕の名前を呼ぶ。

「何?母さん」

僕は居間のふすまを開け、母さんに声をかける。

「あんたこんな時間からどこ行くのよ?明日も仕事なんでしょ?」

あ……そういえば、母さんに明日から休みなの言ってないんだった。

「仕事は明日から正月休みだよ。今からりこのところ行ってくるの」

「あら、そう。気をつけてね」

「それだけ?」

思わず聞き返す。

「うん」

母さんは僕の方を振り返らずに返事をする。

まぁいいや。

僕はふすまを閉め、そそくさと家を出た。



***1:36***



「ありゃ……ガソリン無いや」

エンジンをかけると、ガソリンのランプがついていた。

どうしようかな。

途中に確かスタンドあったけど……。

念のために寄っておこう。

もしかしたらりこと出かけることになるかもしれないし……。

なんかこんなこと考えながらスタンド寄るのって……切ないな。



***1:40***



さすがにこの時間は誰もいないなぁ。

いつもはこんな時間に来ないから何とも思わないけど、この時間に空いてるスタンドって意外にありがたい。

僕は誰もいないスタンドでガソリンをいれ、りこの家へ向かった。


♪~♪~♪~


「ん?」

誰だろう?

こんな時間に。

相手は架だった。

何の用事だろう?

数十分前に電話したばかりなのに。

……またからかいの電話かな……。

架のやつも飽きないな……。

運転中だし、でようかどうしようか。

……出るか。

僕は車を路肩に停めて電話に出た。

「もしもし?」

『あのさ、お前明日暇?』

唐突になんだろ?

というか、からかいの電話じゃないんだ。

「暇だけど?」

『買い物付き合ってくれ。明後日彼女との記念日なんだよ。プレゼント買うのすっかり忘れててさ』

……架らしいな。

架はいつも人のことばかりで自分の肝心なところは抜けてたりするからな。

「別にいいよ。予定もないし」

僕が答えると架は安心した感じだった。

『助かるよ。さすがに一人で買いに行くの恥ずかしくてよ』

なら、彼女といって好きなもの買ってあげればいいのに……。

とは思っても口には出せない。

なぜなら、架は結構ロマンチストで、一緒に買うより別に買って喜ばせてあげたいからだ。

気持ちはわかるけど。

「何時ごろから行くの?」

『そうだなぁ……12時ごろでいいか?昼飯おごるよ』

12時なら多分起きてるだろうし、おごってもらえるならそのほうがいい。

「いいよ。僕が迎えに行けばいい?」

二人で出かけるときは基本的に僕が運転だ。

架は運転が荒くて怖いんだよな……。

『おう。頼む。着いたら電話してくれ』

「わかった」

僕は最後にもう一度だけ約束の確認をして電話を切った。



***1:50***



「あれ?」

りこの家には着いたものの、りこの部屋は真っ暗だった。

まだ終わってないのかな……?

「う~ん……」

僕は悩んだ。

ここで待っているべきか、居酒屋まで迎えに行くべきか。

どうしようかな……。

でも、りこを一人で歩かせるくらいなら迎えに行ったほうが良いよね。

それに……早くりこに会いたいし。

「よし!」

りこを迎えに行こう。

りこがいつも通勤に使っている道は知っているし、きっと途中で会うよね。



***1:55***



りこの家を出てすぐ。

家の方へ走っていくりことすれ違った。

でも、なんだかりこの様子がおかしかった気がする。

帰っているというより、逃げてるような感じがした。

いやな予感がする。

急いで戻ろう。



***2:00***



りこの家の前につくと、部屋の電気が着いていた。

やっぱりさっきのは間違いなくりこだ。

何かあったのかな?

僕はりこの部屋に向かった。


ピンポーン


「りこ?」

チャイムを押してみるが、りこは姿を現さない。

電気着いてるし、いる気配はするんだけどな。


ピンポーン


「りこ?いるんだろ?開けて?」

もう一度呼んでみるが、反応は無い。


ドンドンドン


「りこ?」

今度はドアを叩いて呼んでみる。


ドンドンドン


「開けて?りこ?」

さらにもう一度呼んでみる。

でも、中からの反応は無い。

だんだん不安になってきた。


ガチャッ


その時、ものすごい勢いでドアが開いた。

「いやぁ!!」

それと同時にりこが悲鳴をあげながら出てくる。


ガンッ


「うっ……」

頭に衝撃が走る。

何が起きたのかまったくわからない。

「りこ……?」

見上げると、そこには何かを振り上げているりこの姿が。

「いやぁぁぁ!!!」

りこは悲鳴をあげながら、何度もそれを僕に叩きつける。


ガンッ!ガンッ!!


何度も頭に衝撃が走る。

視界が歪んでいく。

だんだん痛みさえも感じなくなってきた……。

意識が遠のく……。

りこ……。


ガンッ!ガンッ!!


「はぁ……はぁ……」


「くく……逝ってらっしゃい……」

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