Selection Of Soul

鴉河 異(えがわ こと)

すれ違う願い

***2月27日 AM1:16***


「お疲れさまでぇす」

私はみんなに挨拶をし、早々に店を出た。

実は今日は、私の誕生日なのだ。

まぁ……予定は何も入ってないんだけど。

だからといって、誕生日まで店の人と一緒にいるのは正直寂しいので、店を早々と出たのだ。

私はバックの中から携帯を取り出す。

開いてはみるものの、メールも着信もない。

ちょっと期待してたんだけどな……。

こっちから掛けてみようか……。

でも、誕生日に自分から連絡するのは何か……寂しすぎる。

私は携帯をバックにしまうと、いつものコンビニへと向かった。



***1:20***



私は友達の華澄が働いているコンビニへと到着した。

華澄とは高校時代からの友達だ。

私と似たようなサバサバした性格をしている。

そのせいかとても付き合いやすい。

「おつかれ」

私は彼女の肩を叩きながら言った。

「おっ!おつかれ」

彼女は仕事を中断して私のほうを振り向く。

「そういえば、涼子今日誕生日だよね?おめでとう!!」

「覚えてたの?」

彼女は記念日や、人の誕生日をあまり覚えない。

意味が無いことは覚えないらしい。

その彼女が私の誕生日を覚えてくれていたのはちょっと嬉しい。

「覚えてるよ!バカにすんなよぉ」

怪しい笑みを見せる彼女。

変な顔。

「今日は淳君とデートじゃないの?」

う……痛いところをついてくるな……。

「残念ながら一人です」

私はそっぽを向いた。

「あら、痛いこと聞いた?」

またしても怪しい笑いをする華澄。

「別にいいけど」

そういって私はまた携帯を見る。

私が期待していたのは他でもない、淳からの連絡だった。

今はただの友達なのだが、私の中ではもう友達ではない。

側にいてほしい人なのだ。

多分、淳も私に好意を持ってくれていると思う。

でも、きちんと言われたわけではないので、ちょっと自信が無い。

華澄は「周りから見たら付き合ってる」って言うけど、こればっかりは……。

「で、今日も夕飯買ってくの?」

彼女は私に買い物カゴを手渡す。

「もちろん」

このコンビニによるのはある意味、私の日課みたいなものだ。

仕事帰りはコンビニによって夕飯を買って帰る。

自分で作ったりもするが、最近はコンビニが多い。

まずいとは思ってるんだけど、めんどくさくて。

「あんまり食べ過ぎないようにね」

華澄はニヤッと笑うと仕事に戻った。

その後、私は適当に夕飯を買い、コンビニを後にした。



***1:35***



「くぅ~ん」

どこからか犬の泣き声がした。

声のしたほうへ行ってみると、そこには可愛い子犬が捨てられていた。

「お前捨てられたの?」

私が近寄ると、子犬は尻尾を振って鳴く。

可愛い。

「よしよし」

しゃがみこんで頭を撫でていると、子犬がコンビニの袋に頭を突っ込んだ。

「わっ!何してんの!!」

私は驚いて袋を遠ざける。

おなか空いてるのかな?

そう思って袋の中を覗く。

うぅん……お肉ならあげてもいいかな?

私はさっき買った唐揚げを取り出し、ひとつ子犬に差し出した。

すると、すごい勢いで食べ始める。

「お前、おなか空いてたんだ」

私は子犬の頭を撫でる。

「でも、お家にはつれて帰れないんだよ。ごめんね」

そう言いながら子犬を抱き上げる。

子犬は私の顔をなめた。

「こらっ」


ドサッ


子犬と戯れていると、どこからか変な音がした。

なんだろ?

何かが倒れるみたいな音だったけど……。

私はどうしても気になり、子犬を元の場所に戻し、音のする方へと向かった。

「……!」

そこには女の人が倒れていた。

しかも、お腹から血を流している。

その血はみるみる周りに広がっていく。

私は、目も前の光景に恐怖を覚え、その場から逃げるように立ち去った。



***1:40***



ドンッ


「キャッ!!」

夢中で走っていたため、私は何かにぶつかった。

顔を上げるとそれは見覚えのある人だった。

「店長……」

私はほっとした。

そして、さっきのことを思い出し、店長に駆け寄った。

「店長!あっちで女の人が……」

よく見ると、店長の服は汚れていた。

「ん?どした?」

店長が私のほうへ近づこうと街灯の下を通る。

「!!」

店長の服は血で真っ赤になっていた。

さっき汚れていると思ったのは血だったのだ。

「女の人がどしたって?」

そう言いながら、じわりじわりと私のほうへ近づいてくる。

……怖い……。

気づくと私はその場から逃げ出していた。



***1:48***



私は近くの公園へ逃げ込んだ。

ここならそんなに光もないし、きっと大丈夫……。

「りこ?」

そのとき、入り口のほうから店長の声が聞こえた。

声を聞いた瞬間、私の体は緊張して動かなくなった。

「りこ?どこにいるんだ?」

砂を踏む足音とともに、店長の声が近づいてくる。

怖い。

私の頭の中はそれしかなかった。

どうか……見つかりませんように……。

祈るように、息を殺して時が過ぎるのを待つ。

「ここにいたのか……」

私の祈りも虚しく、その声とほぼ同時に、私の体は地面へ押し付けられた。

「いや!!」

私の叫び声が、公園の中にこだまする。

しかし、店長はまったく動じない。

「残念だな……」

店長は笑っているような、悲しんでいるような顔で私の首に優しく手を回す。

「お前のこと気に入ってたのに……」

店長の手に少しずつ力が込められていく。

「こんなとこ見られたら」

苦しい……。

「殺すしかないじゃないか」

そう言った店長の顔は笑顔だった。

まるで、私を殺すことを楽しんでいるような……。

嫌だ……死にたくない……!

私は精一杯の力で抵抗する。

しかし、男の人の力にかなうはずも無い。

むしろ、店長はこの状況を楽しんでいるようだった。

「そういう風に抵抗するところも……たまんないな」

この人……頭おかしい……。

私は身をよじり、何とか体制を崩そうとする。

その時、私は自分の下が一面砂であることに気がついた。

私はとっさに砂を掴み、店長の顔に投げつけた。

「いたっ!」

どうやら、私の投げた砂が目に入ったらしく、店長の手が首から離れた。

私は思いっきり店長を押し飛ばした。

店長はあっけなく倒れ、私はその場から逃げ去った。



***1:55***



無我夢中で走っていると、私は一台の車とすれ違った。

「あっ……」

その車は淳の車に似ていた。

助けを求めようかとも思ったが、追いつかれてしまうかもしれないという恐怖が襲う。

早く家に帰らなきゃ。

こんなところにいたら、またあいつが来る。

次捕まったら……今度こそ殺される!



***1:58***



ガチャン


部屋に入ると急いで鍵を閉めた。

「はぁ……はぁ……」

これでもう大丈夫。

ここにいれば、きっとあいつは入ってこれない。

私はリビングの電気をつけた。

「ふぅ……」

少しずづ落ち着きを取り戻す。

それと同時に恐怖が襲う。

気づけば私は震えていた。

「怖かった……」

目から涙が零れ落ちる。

恐怖とともに、店長に裏切られたという悲しみが襲ってきた。

店長とは、一緒にご飯を食べに行ったりもした。

信じてたのに……。


ピンポーン


その時、家のチャイムがなった。

私の体は一瞬にして硬直した。

「りこ?」

この呼び方……店長だ……。


ピンポーン


「りこ?いるんだろ?開けて?」

開けられるはずが無い。

開けたら……殺される……。


ドンドンドン


「りこ?」

怖い。

何とかしなくちゃ。

このままじゃ殺されちゃう……。


ドンドンドン


「開けて?りこ?」

何とか……何とかしなきゃ……。

私は辺りを見回した。

すると、テディベアの置物が目に入った。

これで……殴れば……。

私の頭には、恐怖から逃げることしかなかった。

私は、テディベアの置物を握り締め、玄関に向かった。


ガチャ


「いやぁ!!!」

私はテディベアの置物を振り下ろす。


ガンッ


「うっ……」

男のうめき声が聞こえる。

「りこ……?」

男は私の名前を呼ぶ。

「いやぁぁぁぁ!!!」


ガンッ!ガンッ!


その後はただ夢中で男を殴り続けた。


ガンッ!ガンッ!


しばらくすると、男は私の足元に倒れこんだ。


「はぁ……はぁ……」

私は男を見た。

「え……?」

そこに倒れていたのは、店長でなく、淳だった。

私の頭は今の事態についてこれていなかった。

私が殴ったのは店長のはず…。

なのに何で淳が……?

「淳……?」

名前を呼んでみるが、反応は無い。

「ねぇ……淳ってば……」

体を揺らしてみるが、やはり反応は無い。

淳の周りには血の海が広がっていく。

「くく……逝ってらっしゃい……」

どこからか声が聞こえた。

声のほうを見ると、そこには冷たく笑う店長の姿が……。


「その顔……たまんないね……」

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