かくれんぼ

大学の学食での昼飯中、友人の毅が写真を見せながら言った。

「お前の後ろに写ってるこれ何?」

その写真は、先日友人数名と遊園地に遊びに行った写真だった。

「何って?」

俺は、毅からスマホを受け取りながら聞く。

「これ。ここの黄色いの」

毅は写真の1箇所を指さす。

この時写真を撮った毅以外のメンバーで写っている。

俺の後ろの方に、黄色い服のようなものが物陰からのぞいている。

「誰か居たんじゃないの?遊園地だし」

そう言いながらスマホを返す。

毅は「うーん」と唸りながら首を傾げる。

「もしかして……心霊写真とか」

「無い無い。てか、俺そういうの全然感じないし、わからん」

俺は昼飯のカツ丼を食べながら答える。

「だよな。俺もわかんないし、人いっぱいいたからタイミングだろうな」

そう言ってスマホをしまうと、毅もラーメンを食べ始めた。

何気ないこの一枚の写真が、すべての始まりだった。



その数週間後。

俺たちは、仲のいい友人四人でバーベキューに出かけた。

季節外れということもあって、俺たち四人しかいなかった。

みんなで肉を焼いているところを、毅がスマホで写真を撮る。

俺たちも盛り上がりながらポーズを取る。

数枚写真を撮ったところで、毅がスマホを見ながら首をかしげる。

「どしたの?」

由美が毅に駆け寄り、スマホをのぞき込む。

「いや、なんか黄色いのが映り込んでるんだけど……これなに?」

毅は画面をみんなのほうに向ける。

確かに、バーベキューをしている俺たちの後ろのテント付近に黄色い何かが映っている。

テントは赤だし、周りを見て歩くがそれらしきものは見当たらない。

「光の反射とかじゃないの?」

由美は怖くなったのか、そう言って肉を焼きだす。

みんなしばらく無言だったが、気のせいということにしてバーベキューを再開した。

その後も何枚か写真を撮ったりしたが、それ以降は黄色い何かが映ることはなかった。


夜になり、毅が持ってきた花火をすることになった。

俺は暗闇の中、水を汲みに行くため管理棟に向かっていた。


……み……た……


「!?」

何かをささやく声が聞こえた。

女の子の声?

後ろを見るが、何もいない。

もちろん毅たちは、はるか遠くにいる。

空耳?

毅たちの声がここまで聞こえた?

俺は怖くなり、足早に管理棟へ急ぐ。

管理棟はすでに誰もいないようで、入り口脇にあるトイレの電気だけが煌々とついていた。

急いでバケツに水を汲んでいると、後ろに何かが通る気配を感じる。

振り返るが、やはり何もいない。

なんなんだここは……。

俺は恐怖に耐えきれず、バケツを置いて毅たちのことろまで走っていった。

「あれ?お前バケツは?」

息を切らして走ってきた俺を見て、毅が言う。

「な……なんかいる……」

俺は管理棟を指さしながら言った。

「は?管理してる人じゃないの?」

毅は少し呆れたように言うが、俺の様子を見て、何かを察した。

「みんなで見に行こう」

そう言って、みんなで管理棟へ向かうことになった。

トイレに戻ると、先ほど持ってきたバケツが床に転がっている。

毅が個室も一つずつ見て回り、誰もいないことを確認する。

「誰もいないぞ?」

俺以外の三人が首をかしげる。

「私たちのこと怖がらせようとしたんじゃないの?」

由美が俺をからかうように言う。

「それならもっと上手くやれよな」

毅が俺の肩を叩く。

すると毅越しに鏡に黄色い服を着た女の子が映る。

「ひっ……」

声にならない声が漏れる。

その声を聞いて、全員が鏡のほうを向く。

そこには、こちらをじっと見据える黄色い服を着た女の子が立っていた。

「うわー!」

全員が一目散にトイレを出て走る。

無我夢中で走っていると、何かに躓いて転んでしまった。

「いっ……」

うずくまっていると、後ろに気配を感じた。

毅たちかと思い振り返ると、そこには先ほどの女の子が立っていた。

足音を立てず、静かに近づいてくる。

俺は立ち上げれず、そのまま後ずさる。

恐怖で心臓が飛び出しそうだ。

女の子は俺の近くによると

「みーつけた……」

と言って、霧のように消えていった。

近くに気配がなくなり、俺はその場に倒れこむ。

今のは何だったんだ……。


どれくらいそこにいたのだろうか。

毅たちが戻らない俺を心配して迎えに来た。

三人は、あのまま車まで戻っていたが、何も見なかったらしい。

俺たちはそのまま片づけをして帰ることにした。


その後は、写真に変なものが映り込んだり、声が聞こえたりすることはなくなった。

しかし、いつも何かに見られている気がするのだ。

それは、俺を監視しているような、伺っているような視線。

女の子はあの日「みーつけた」と俺に言った。

それからは姿を現すことはない。

俺は何を求められているのだろうか。

俺はこれからどうなってしまうのだろうか……。


「つぎはあなたがおにね……」

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