旅先からの贈り物
ズルッ……ズルッ……
「はぁ……はぁ……」
ドンッ
…………………………………………
バシャン
「……はぁ……はぁ……」
俺は今、彼女と旅行にきている。
もうすぐ俺の誕生日ということで、彼女が計画してくれたのだ。
『たまには自然に触れて癒されなさい!!!』
いつも仕事が忙しい俺のことを気遣ってくれたようだ。
ありがたいことだ。
「水しぶきが気持ちいい」
彼女は滝の側で嬉しそうな顔をしている。
俺より楽しんでる気が……。
まぁ、いいか。
彼女が楽しんでくれれば俺も楽しい。
「ねっ。写真とってもらおうよ。あっ!すいませぇん」
彼女は持ってきたデジカメを近くを通ったカップルに渡した。
「じゃぁ、撮りますよぉ」
彼女は僕の腕に腕を回し、寄り添う。
「はい、チーズ」
カシャッ
「ありがとうございます」
彼女はカップルのところまで走って行き、デジカメを受け取る。
「見て。よく撮れてる。あの人うまいねぇ」
はしゃぎ方が子供だな。
そんなところも可愛いんだけど。
その後、俺たちは湖を見たり、お土産を買ったりして旅行を楽しんだ。
彼女はずっと笑顔で、この旅行を本当に楽しんでいるようだった。
「はぁ。いい湯だったぁ」
彼女が幸せそうな顔をして部屋に戻ってきた。
「とも君も露天風呂入ってくればいいのに」
彼女が少し寂しげな顔をする。
「俺はいいよ。部屋に風呂ついてるし」
俺はどうも知らない人と一緒の風呂に入るというのが好きじゃない。
潔癖なわけではないのだが、なんとなく入る気にはなれない。
「もったいないなぁ……」
そう言いながら彼女が俺の隣に座る。
シャンプーのにおいがなんとも言えない。
始めてみる浴衣姿もそそる物がある。
「とも君・・・」
彼女は俺の名前を呼びながら目を閉じる。
俺は彼女にキスをしようと顔を近づける。
♪~♪~♪~
その時、彼女の携帯が鳴った。
彼女は急いで携帯のもとに向かった。
「もしもし?え?今はちょっと……」
なんだか様子がおかしい……。
彼女は急いで電話を切り、俺のもとに戻ってきた。
「ごめんね?」
彼女は精一杯の笑顔を見せる。
「相手誰?」
「……友達だよ!」
きつめの口調で彼女が言う。
……普通友達からの電話でこんなに動揺するか?
「……ちょっとトイレ行ってくるね」
彼女はそそくさとトイレに行った。
……本当に友達なのか?
俺は嫌な予感がした。
悪いとは思いつつ、彼女の携帯に手を伸ばす。
「まこと……?」
着信履歴は男からだった。
もしかして……。
俺は受信メールを見た。
そこには「まこと」からのメールが何件もあった。
『早く会いたい』
『愛してる』
『彼氏から奪ってやる』
………浮気してる……。
「何してるの!?」
彼女がトイレから出てきた。
彼女は俺から携帯を取り上げる。
「お前……浮気してんの……?」
俺の言葉に彼女は何も答えない。
「なぁ……なんか言えよ……」
「……ごめん……」
否定しないのか……。
「いつからだよ……。何で俺と旅行なんかしようと思った?確かにあんまり構ってやれなかったけど……不満なら言ってくれればよかっただろ……」
彼女はうつむいたまま携帯を握り締めていた。
「とも君忙しそうだったから……重荷になりたくなかったの……。浮気なんかするつもりはなかった。でも……気づいたらこうなってたの……。ごめんなさい……」
気づいたら……?
ふざけんなよ……。
俺は一気に頭に血が上った。
「お前、俺がどんな気持ちで今日一緒にいたと思ってんだよ!!ふざけんなよ!!!」
頭にきた俺は立ち上がって彼女に蹴りを入れた。
彼女はうめきながら横たわっている。
しかし、俺はそれで収まらなかった。
何回も彼女の体を蹴り続けた。
途中、彼女が泣きながら謝っていたが、そんなのお構いなしだった……。
どれくらい経っただろうか。
俺はふと我に返った。
……しかしもう遅かった。
彼女は目を見開いたままぐったりとしていた。
何回呼びかけても、ゆすっても、二度と起きることはなかった。
「まずい……」
俺の頭の中は真っ白になった。
「死体を何とかしなくちゃ……」
その時の俺は、彼女を死なせたことより、どう死体を片付けるかしか頭になかった。
俺は、立ち上がり、彼女を毛布に包み担ぎあげた。
旅館の人や、お客さんに見つからないように外に出る。
一番の難関のフロントにもちょうど人がいなかったので、無事車までたどり着けた。
どこに隠そう……?
埋めるにしても道具がない。
どこかで買うか……でも場所もわからない……。
俺は動かない頭を一生懸命働かせた。
……滝……。
確か、滝つぼは死体が上がらないって聞いたことがある。
昼間の滝に行こう。
俺は急いで車を走らせた。
幸い、時間も遅いので、滝で人と会うことはなかった。
ズルッ……ズルッ……
「はぁ……はぁ……」
俺は滝まで彼女を引きずっていった。
ドンッ
…………………………………………
バシャン
「……はぁ……はぁ……」
俺は滝つぼめがけて彼女を投げ落とした。
しばらく見ていてもあがってくる気配はない。
………とりあえず大丈夫そうだ。
旅館に戻ろう……。
あいつのことを聞かれたら、旅行中にケンカして別れたって言おう。
帰りは別だったから知らないって……。
その後は、旅館に帰るとすぐに疲れて寝てしまった……。
次の日の朝、俺は窓から差し込む朝日で目が覚めた。
体を起こして周りを見回す。
……彼女の姿がないことが、昨日のことが夢ではないことを知らせていた……。
「あら?ご一緒だった女性はどうなさったんですか?」
チェックアウトしていると、フロントの人が聞いてきた。
「昨日の夜ケンカしちゃいまして。先に帰っちゃったんですよ。」
僕は作り笑いをしながら言った。
「そうなんですか。仲直りできるといいですね。」
フロントの人はにっこり笑った。
「そうですね。じゃ、ありがとうございました。」
僕は話もそこそこに切り上げて旅館を出た。
それから二日後……
会社から帰ってきて夕飯を食べていると玄関のチャイムがなった。
今の時間は夜の9時。
こんな時間に誰だ?
「遅くにすいません。宅急便です」
宅急便?
なんだ………旅行の荷物か……。
その時忘れようとしていた出来事を鮮明に思い出してしまった。
「はい」
俺は頭を振って少し自分を落ち着かせてから玄関に出た。
「すいません。こちらが荷物になります」
それは少し大きめな箱が二つあった。
荷物二つもあったか……?
「こちらにサインをお願いします」
俺はサインをして、荷物を部屋の中に運び込んだ。
……確かに旅行先から送ったものだ。
あいつのも混じってるのかな……。
「……!!!」
ダンボールを空けた俺は一瞬固まってしまった。
中に入っていたには、荷物ではなく、人間の腕だった。
「何だこれ……」
俺は急いでもう一つの箱を開けた。
「……!!」
もう一つのほうには人間の足が入っていた。
何の冗談だ……?
俺は血の気が引いた。
もしかして、俺があいつを殺したのを知ってるやつがいるのか……?
どういうことだ……?
誰にも見られてないはずなのに……。
呆然と箱を見つめていると、デジカメと、紙切れが入っているのを見つけた。
デジカメの電源を入れて中のデータを見ると、それは旅行の時のものだった。
「!!!」
一枚ずつ見ていくと、滝で撮った写真の彼女はずぶ濡れになっていた。
しかも、顔や体が腫れ上がっている。
まるで、俺が殺したときそのものだ……。
紙切れを見ると、それは彼女の字で書かれているものだった。
『誕生日おめでとう。もうすぐそっちにいけると思うから待っててね。一緒にお祝いしてあげる』
そっちにいける?
なんの話だ?
それにこれ……いつ書いた手紙だ?
なんにせよ、確かにあの時彼女は死んでいた。
来れるはずがない……。
『追伸。浮気のことはごめんなさい。もう絶対しないから。これからはあなただけのもの……』
……なんだ?
どういうことだ?
俺の家に届いた人間の手足。
彼女のデジカメ。
彼女の字で書かれた手紙。
……わけがわからない……。
唯一つだけわかること……。
それはきっとこの荷物が終わりじゃないということ……。
きっと次に届くのは……。
『これからはあなただけのもの……。もうどこにも行かないわ……』
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