コンビニ

私は自宅からすぐ近くにあるコンビニでバイトをしている。

夜の時間の勤務が多いので、暇なことも多い。

コンビニといえば、勝手に自動ドアが開くという話をよく聞くが、うちの店は正にそれだ。

だいたい夜の十二時近くになると、勝手にドアが開き、来店のチャイムが鳴る。

初めのころは、何かに反応しているのかとドアの周辺を調べたり、センサーの掃除をしてみたりもしたが、最近は慣れてしまって何とも思わない。

むしろ、少し愛着が湧いてしまうくらいだった。



その日も、いつも通り十二時前に、誰もいないドアが開き、来店チャイムが鳴った。

一応入口のほうを見るが、誰もいない。

またかと思い、品出しを続ける。

すると……


ポサッ


何かが落ちる音がした。

それは、入り口近くに置いてあるスナック菓子だった。

風で落ちたのかと思い、元に戻す。

すると、今度は少し奥のほうで物が落ちる音がする。

見に行くと、今度は奥の棚のお菓子が落ちていた。

ここは風ではない気がする……。

背筋がぞくっとした。

その後は、物が落ちることも、ドアが勝手に開くこともなかったのだが、その日以降、勝手にドアが開くと、必ず物が落ちるようになった。

何日か見ていると、物が落ちる方向がいつも同じことに気が付いた。

ドアが開き、入り口の物が落ちると、次は奥の棚のものが落ちる。

店の中を反時計回りに回っているようだった。

何か意味があるのだろうか?



そんなことが続いていたある日。

いつも夜のシフトに入っていた人が急遽休んだため、珍しくオーナーがシフトに入っていた。

オーナーは昼間シフトに入っていることが多かったので、正直どんな人かわからない。

店長とは長年の友人っていうこと位は知ってるんだけど・・・・・・。

少し緊張しながら仕事をしていると、いつもの時間になった。

ドアが開き、チャイムが鳴る。

「いらっしゃいませー」

オーナーが入口のほうに目をやる。

もちろん誰もいない。

「あれ?今誰か入ってこなかった?」

オーナーは不思議そうな顔をしながら、私のほうに駆け寄ってくる。

「いつものことですよ。この時間になると勝手に開くんです」

私がそういうと、オーナーは顔を強張らせながらバックヤードへ逃げて行った。

しかし、その日は何かが違った。

入口のお菓子も、奥の棚のお菓子を落ちていない。

入口が開いてから何も起きていないのだ。

何もないに越したことはないと思っていると……


バンッバンッ


勝手にドリンクコーナーのドアが開き、ものすごい勢いで閉まった。

私は驚いて、ドリンクコーナーへ行ってみる。

しかし、ドアが開け閉めされただけで何も落ちていない。

何だったんだろうかと不思議に思っていると、今度はレジの近くで


ボタボタボタッ


と、大量の物が落ちる音がした。

レジの方へ向かうと、近くにあったおにぎりが一段分全て落ちている。

それはまるで誰かが意図的に落としたような落ち方だった。

おにぎりを片付けていると、今度は真ん中の通路のお菓子が落ちる音がした。

それは、ただ落ちるというよりも、床に投げつけるような音だった。

この頃からだんだんと不思議な気持ちは恐怖へと変わっていく。

するとまた、ドリンクコーナーの方で音がする。

ドアの開閉だけではなく、ドリンクが落ちる音までする。

・・・・・・何だか目的があって歩いているような動線・・・・・・?

最後に音のしたドリンクコーナーの先には・・・・・・

「ギャー」

オーナーの叫び声がした。

その声からは恐怖が読み取れるほどだった。

私は急いでバックヤードへと向かう。

そこには、尻もちをついて怯えているオーナーと見知らぬ女の人の姿があった。

女の人は、私の事など気にすることなくオーナーににじりよって行く。

オーナーは、腰が抜けたのか、尻もちをついたまま後ずさる。

女の人はオーナーの前まで行くと、顔を近づけ何かを囁く。

こちらからは聞き取れない。

そして、何事もなかったかのように消えていった。

「オーナー、大丈夫ですか?」

私は手を差し出すが、オーナーは怯えていて手を取ろうとしない。

「大丈夫ですか?」

私が顔を覗き込むと、オーナーは焦点の合わない目で何かをブツブツと呟いていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・・」

そう言っているように聞こえた。

しばらく様子を見ていたが、どうにもならなそうなので、店長に電話をして来てもらうことにした。

数十分後、店長が店に到着するが、オーナーは相変わらず何かを呟いていて、どうすることも出来なかった。

とりあえず、店長がオーナーを家まで送った後、シフトに入ってくれることになった。


オーナーを送り、店に戻ってきた店長が、私に詳しい事情を尋ねてきた。

私は見たままを全て話したが、もちろん信じられるはずもなく、具合でも悪かったんだろうということになった。


しかし、それから一ヶ月も経たないうちに、オーナーはそのコンビニを閉店することを決めた。

私たちは急な決定に驚き、理由を聞いたが、オーナーは頑なに答えなかった。

店長も何か知っていそうだったが、オーナーが言わないのならと教えてはくれなかった。

結局、詳しい説明もされないまま、店は閉店となった。


それから数ヶ月後。

新しいバイト先も見つかり、いつもの生活に戻った頃、街で前のコンビニの店長に会った。

お互い少し気まづかったが、閉店の理由がどうしても気になっていたので、思い切って聞いてみることにした。

「店長、前のコンビニが閉店した理由って・・・・・・あの日の事が原因ですか?」

その言葉を聞くと、店長は驚いたようにこちらを見た。

「あの日見た女の人が原因ですか?」

私がもう一度尋ねると、店長は観念したようだった。

「そっか。古川はあの日見てるんだよな」

店長はため息をつくと、事の次第を話し始めた。

「あの後、しばらくはずっと憔悴しきてて、何を聞いても答えられなかったんだが、ある時急に正気に戻って、店閉めるって言い出したんだよ。本人に聞いても拉致があかないから、オーナーの彼女に聞いてみたんだけど・・・・・・どうやらあの日現れたのは、浮気相手の女性だったらしくて・・・・・・。前にさ、オーナーが事故にあってしばらく休んだことあったろ?」

確かに一年くらい前に、オーナーが事故にあって入院し、シフトが凄いことになってた時期があった。

「あの事故、浮気相手と一緒にいての事故だったらしくて、相手は亡くなったらしいんだ。彼女にバレて、別れ話した帰り道に事故にあったらしくて・・・・・・それで、恨まれてるんじゃないかって・・・・・・」

何というか・・・・・・相手の方には申し訳ないが、オーナーの招いた結果なのでは・・・・・・と思いはするが、さすがに友達の店長にはそれは言えなかった。

「オーナーは今どうされてるんですか?」

私が聞くと、店長は俯いて言った。

「あれからは怖くて外にも出れないらしい。今は彼女が面倒みてるみたいだけど・・・・・・」

店長は再びため息をついた。

その溜め息が現状を物語る。

決して良い方向には向いていないのだろう。

その後、お互いの近況報告を少しして、私たちは別れた。


理由はどうあれ、店長のしたことは許されることではない。

正直、自業自得なのだと思う。

しかし、そのことに縛り付けられている彼女や浮気相手のことを考えると、胸が痛む。

私には、いつも同じ時間に来ていたあの女性が、少しでも早く心安らかになれることを祈ることしか出来ない・・・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る