メール

これは母に聞いた話だ。


それは、ある日の夜のことだった。

母は、弟と一緒にテレビを見ていた。

いつもと何も変わらない日常。

その時、母の携帯が鳴った。

いつもあまり気にしない母だったが、その日は違ったらしい。

携帯を開き、すぐに確認した。

「ん?」

母は首をかしげた。

なぜなら、それは見たことのないアドレスからjのメールだったからだ。

母はその手のことに関しては疎かったため、弟に携帯を渡した。

「中見てもいい?」

弟は、とりあえずメールの内容を確認してみることにした。

『お姉さんが亡くなりました。』

弟と母は血の気が引いた。

母は一瞬気が動転したらしい。

母の実家は北海道にあるため、兄弟たちとはしばらく会っていない。

だが連絡は取っていた。

姉が亡くなった!?

母は信じられなかったので、妹に電話して聞くことにした。

やはり直接本人には聞きづらかったらしい。

「お姉さん……元気?」

恐る恐る聞く。

「元気だよ。ピンピンしてる」

妹は元気に答える。

「そう」

母は胸をなでおろした。

「急にどうしたの?」

妹は聞く。

「いや、ちょっと気になったから電話しただけだから。元気ならいいの」

妹との話もそこそこに母は電話を切った。

姉じゃない。

では、誰のことを……もしかして?

その時、母の頭に私のことが浮かんだ。

もしかして娘に何かあったのか?

私は居酒屋で働いているため、あまり家族と顔をあわせることがなかった。

その頃は、会社の人と飲みに行くことも多かったので、家にも帰っていなかった。




「佐藤さん、弟さんから電話」

突然主任に電話を渡され、私は何事かと思った。

まさか母が倒れたとか!?

「もしもし?」

「お姉ちゃん?元気?」

「は?」

突然の質問に私は唖然とした。

「元気だよ。会社まで電話してきてどしたの?」

私は弟に聞いた。

「うん。実はね……」

その時、軽くだがそのメールの話を聞いた。

「ふうん。まあ、とりあえず私は元気だから。仕事戻るよ?」

「わかった。がんばってね」

そういってお互い電話を切った。

確かにメールのことは気になったが、今は仕事中。

とりあえず、仕事に戻った。




次の日、私は仕事が休みだったので、母と弟が仕事から帰ってくるのを待った。

昨日のメールのことが気になっていたのだ。

夕方の6時過ぎ、母が帰ってきた。

「おかえり」

「あら、あんたがこの時間にいるなんてめずらしいね」

母は上着を脱ぎながら答えた。

「うん。昨日のメールのことが気になったから」

「あぁ」

椅子に腰掛けた母は、ゆっくりと話し始めた。




その話によると、母には姉のように慕っていた人がいたらしい。

昔旅館に下宿して働いていたときにお世話になった人で、年は親子ほど離れていたが、妹のように可愛がってくれたようだ。

母がこっちに越してくるときに会ったのが最後、あまり連絡も取れず、疎遠になっていた。

その人が昨日の深夜に亡くなったらしい。

今朝、母の妹から電話があり、教えてもらったのだ。

あのメールはその人が亡くなる数時間前に送られてきたものだった。

母が言うには、きっと遠く離れた妹分に最後の挨拶がしたかったのだという。

母は昔からその手のことにはよく遭遇している。

その話をしているときの母は、嬉しそうな、でも切なそうな顔をしていた。




大切な人が亡くなるというのはとても辛いことだ。

でも、こんな風に最期のお別れに来てくれると、その辛さも少しは和らぐのかもしれない……。


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