訪問者
それはいつもの帰り道。
仕事も定時で終わり、まだ空は明るかった。
夕飯は何にしようか考えてながら歩いていると、何故かビルの間の道に目が止まった。
何の変哲もない脇道。
空の明るさを無視するような暗闇が続いていた。
少し不気味な雰囲気だったが、私は何かに導かれるように脇道に入っていった。
しばらく進むと、前に薄らと小さな白い影が見えてきた。
目を凝らしてみると、それは青白い顔をした女の人だった。
でも、その女の人には……下半身が無い。
女の人がこちらを見る。
まずい……目が合った。
私は怖くなり、すぐさま引き返した。
後ろを振り返るが追いかけては来ない。
見てはいけないものを見てしまった……。
その日の夜。
ピンポーン……
私はインターフォンの音で目を覚ました。
枕元のスマホを見ると、深夜の2時過ぎたところだった。
夢でも見ていたのかと思い、寝返りを打つ。
ピンポーン……
また聞こえる。
恐る恐る部屋にあるインターフォンから外を確認する。
誰もいない。
ピンポーン……ねぇ……
え…誰もいないのにインターフォンがなっている。
しかも低い女の人の声が聞こえる。
ピンポーン……ねぇ……
これは出てはいけない。
だって、こんな時間に尋ねてくる知り合いなんていない。
おかしいでしょ……
ピンポーン……ねぇ……開けてよ……
私は恐怖で動けず、インターフォンの画面を消す。
そして、その人がいなくなるのを息を殺して待った。
どれくらい経っただろうか。
気づくとインターフォンの音は止んでいた。
私は震える手でもう一度インターフォンの画面をつける。
……何も無いし、声も聞こえない……。
私はホッとして、また布団に入り眠りについた。
次の日。
帰りは昨日と違う道で帰ることにした。
とてもじゃないが、怖くて通れない。
またあの女の人がいるんじゃないかと思うと無理だった。
その日は、次の日から連休だったので、深夜まで映画を観て起きていた。
トイレに行こうと、DVDを止めると
ピンポーン……
まただ……。
時計を見ると、2時を少し過ぎたところだった。
ピンポーン……ねぇ……
え!?
声が聞こえたので振り返ると、勝手に部屋のインターフォンの画面がついていた。
昨日と同じ声だ……。
コン……コン……
ピンポーン……
今度は窓の方からも音が聞こえた。
……2人いるの……?
コン……コン……おい……
ピンポーン……開けて…
男の人の声も聞こえる……。
怖い……でも動けない……。
その音と声は何度も繰り返される。
インターフォンは何度もなり、窓を叩く音は強くなる。
男女の声は、音と共に聞こえ続ける。
私は耳を塞いで止むのを待った。
しばらくすると、また音は止んでいた。
部屋のインターフォンも消えている。
もしかして、昨日の脇道の女の人がついてきてるのかな……。
でも、女の人しか見てないのに何で男の人の声まで……。
起きているのが怖くなった私は、テレビを消して、電気をつけたまま寝ることにした。
次の日。
私は霊感のある友人に相談することにした。
電話で相談しようとすると、直接聞きたいと言ってくれたので、友人の家にお邪魔することにした。
「突然ごめんね。ありがとう」
私は椅子に座りながら言った。
「気にしないで。早速聞かせてもらっていいかな」
彼女はお茶を出しながら言う。
「うん……」
私は彼女に全て話した。
仕事帰りに、下半身の無い女の人を見た事。
その夜に家に女の人が来た事。
昨日は男の人も増えていた事。
私の話を聞いている彼女の顔は、次第に険しくなっていく。
「それ、危ないね」
改めて危険なんだと認識すると、恐怖が蘇ってくる。
「明日お祓いに行こう。知り合いに頼んでおくから。それから今日はここに泊まって。あなたの家だと危ない気がするから」
彼女はそれだけ言うと、知り合いの人に電話をしてくれた。
お祓いとか正直大袈裟だなと思っていたけど、彼女の真剣さをみると、本当に危ないんだろう。
家に帰るのは不安だったし、泊めてくれるのもありがたい。
彼女に相談してよかったと思った。
その後、彼女の知り合いが明日の早朝にお祓いの時間を作ってくれることとなり、とりあえずそれに備えるということで、夕飯を食べ、早々に寝ることにした。
ピンポーン……
私は飛び起きた。
友人の家にいるはずなのに、インターフォンが聞こえる。
友人の方を見ると、彼女も起き上がり、インターフォンの画面の方を見ている。
ピンポーン……
音と共に部屋のインターフォンの画面が光る。
ピンポーン……ねぇ……
また声が聞こえてきた。
すると……
コンコン……
窓の方から叩く音が聞こえてきた。
コンコン……おい……
ピンポーン……開けて……
インターフォンと窓を叩く音が交互になる。
しばらくすると……
ドンドン……
今度は部屋のドアを叩く音がしてきた。
一人増えている。
しかも、かなり近くまで来ている……。
コンコン……おい……
ピンポーン……開けてよ……
ドンドン……おい……うぅ……
玄関、窓、部屋のドアを叩く音が入り乱れる。
その中に男女の声が混在する。
女の声は開けてと懇願し、男二人の声は私たちに呼びかける。
私は恐怖で体が固まり、身動きひとつ出来ない。
息をするのも苦しいほどだ。
私は恐怖のあまり両手で耳を塞ぐ。
隣の友人は、部屋のドアを凝視する。
そして、すっと立ち上がり引き出しから何かを取り出して、それを持ってドアの方へ近づく。
すると
ドンッ!
「うるさい!!」
大声を出しながら、ドアを思いっきり殴った。
それが項をそうしたのか、音は止んだ。
彼女は振り返り、先程引き出しから出したものを私の腕につける。
それは数珠だった。
「とりあえず付けといて。これでたぶん大丈夫だと思うから」
彼女はそういうと、自分の布団に戻っていく。
私は彼女にお礼を言い、寝ようと布団に潜り込むが、一向に寝れる気配はない。
このまま朝になるのではないだろうか……。
翌朝。
友人に起こされ、自分が知らないうちに寝ていたことに気づく。
あの状態から寝れるとは、私は案外神経が図太かったようだ。
そのまま起き上がり、支度をして、お祓いに向かう事にした。
友人の知り合いは、神社の神主さんだった。
私たちが到着すると、すぐに本殿に通し、お祓いを始めてくれた。
裏を返せば、私はそれくらいまずい状態だったらしい。
神主さんによると、私はすでに半分憑かれている状態で、あと数日遅ければ完全に取り憑かれていたらしい。
たまたまあの日、目が合ってしまったのでついてきたようだった。
男の人達は、あの女の幽霊に引き寄せられてきたそうで、あのままだともっと増えていたし、取り返しがつかなかったかもと言われた。
今回は友人のおかげで助かったが、次はどうなるか分からない。
次なんて無いに越したことはないが、不気味な場所にはできるだけ近づかないでおこうと改めて心に決めた出来事だった。
「ねぇ……開けてよ……ねぇ……」
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