もう一人

その日は、友人の正則、由利、明美と四人で心霊スポットに行くことになった。

地元では有名なところで、うわさも数多くある。

女の霊が出る。

肩をつかまれる。

悲鳴のような声が聞こえる、など。

俺たちは何が起きるのか、ドキドキしながら向かった。




 目的地に着いたのは、深夜1時ごろ。

山奥にある廃墟なので、辺りは真っ暗だ。

正則が用意してくれた懐中電灯を持って、俺たちは山の中に入っていく。

懐中電灯が無ければ、何も見えないような暗闇を四人で固まって歩く。

時折、どこからか獣の気配がする。

これは廃墟に着くまでのほうが危険なのではないだろうか。

 そんなことを考えながらも、ひたすら道なき道を進んでいく。

なかなか廃墟が見つけられず、道に迷ったのかと不安になっていると、急にそれは現れた。

まさに心霊スポットという雰囲気のある一階建ての平屋。

窓はすべて割れ、今にも朽ち果てそうだ。

周りは草だらけで、歩きづらい。

何とか中に入ろうと入り口を探していると、玄関を見つけた。

それは、俺たちを誘うかのように開いている。

 俺たちはみんなで顔を見合わせ、意を決して中に入る。

まずは一番近い部屋から探索を始める。

室内はすでに来た人たちによって荒らされている。

そこら中に物が散乱し、いたるところに落書きがされている。

それでも何かないかと探していると……


パキッ…パキッ…


 思わず全員が振り向く。

俺たちではない足音。

息をのみ、周りを確認する。

しかし、何もいるはずもなくみんなで少しホッとする。

探索を再開すると……


パキッ……パキッ……


先ほどよりも近い場所で足音がする。

「……やばくない……?」

俺の前を歩いていた由利が言う。

「いや……まだ大丈夫だろ……。来たばかりだし……」

一番前を歩いていた正則が、あたりを見回しながら答えた。

皆は少し考えた後、正則の言葉に頷き、探索を進める。

 一番近い部屋の探索が終わり、隣の部屋へ移動する。

相変わらずの落書きと、散乱するがれき。

押入れの中には、布団が数枚残っていた。

ここは寝室でだったのだろうか。

ボロボロになった洋服なども落ちている。

全員が一言も話さずに進んでいく。

一番奥の部屋には特に何もなく、ただがれきが散乱しているだけだった。

その後もトイレやキッチンなどを見て回り、一周して玄関付近に戻ってきたとき……


ドンドンドンッ


奥のほうの部屋から何かをたたく音が聞こえた。

一瞬で緊張が走る。

奥のほうをライトで照らすと……


ドンドンドンッ

ダダダダダッ


先ほどの音と同時に、明らかに何かが走ってくる音が聞こえる。

「やばい!逃げろ」

正則のその声を合図に全員が走りだす。

俺はすぐ後ろにいた由利の手を掴み、急いで走る。

逃げながらでも、何かが走ってくる音が聞こえる。

外に出て、来た方向を目指す。

走る音とともに何かをたたく音も聞こえる。

怖い。

逃げないと。

それしかなかった。

何に追いかけられているかもわからず、無我夢中で走った。

 どれくらい走っただろうか。

山の中で足を止める。

息を切らしながら、後ろを見る。

明美と正則もすぐ後ろにいた。

周りを確認するが、もう何の音もしない。

その後、俺たちは周りを警戒しながら車まで戻った。




 廃墟からの帰り道。

後部座席の正則がトイレに行きたいというので、途中のコンビニに寄ることにした。

あんなことがあったせいか、コンビニの明かりがとても嬉しい。

 俺たちは全員でコンビニに入り、正則はトイレに向かった。

店内をぐるっと回り、各々の買い物を済ませるが、正則はまだ出てこない。

店で待っているのもなんだか気まずいので、俺たちは先に車に戻ることにした。

車で三人で正則の帰りを待つ。

十分以上待っているが戻ってくる気配はない。

「私、見てこようか……?」

後ろに座っていた明美がそう言って、車を出ようとした時……


ガンッ


車の後ろからものすごい音がした。

あまりの音に三人とも驚く。

何の音かと確認しようとすると

「おい!」

正則が後部座席の窓から顔を出す。

俺たちが気付かないうちにでてきたのだろうか。

そう思っていると

「なんで置いてったんだよ!マジ無いわ」

と言いながら、息を切らして車に乗り込む。

え?

置いていった……?

「何言ってんの?ずっと一緒にいたでしょ」

明美が言うと、正則は息も切れ切れに答えた。

「は?お前ら俺が追い付いてないのに先に車乗って走ってたじゃん」

正則の反応を見ると、嘘を言っているようには見えない。

現に息を切らし、この寒い日に汗びっしょりだ。

じゃあ、さっきまで一緒にいたのは誰だ?

俺たちが今待ってるのは……?

俺は怖くなって、急いで車を発進させた。

後ろに乗っている明美は恐怖で泣き出してしまった。

助手席の由利も、今にも泣きだしそうな顔をしている。

正則は、何が起きたのかわからず、きょとんとしている。

しかし、恐怖のあまり何があったのかは口にできなかった。

俺たちは、その後どこにも寄らずまっすぐ家に帰った。

そして、もう二度と心霊スポットには行かなくなった。



……その人で本当にあってる……?

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