第31話 新たな決意

鉄道研究会の面々のおかげで無事容疑が晴れた僕は、久しぶりに外の空気を吸った。


山陰の空はすでにオレンジ色に色付いている。ポケットからスマホを出し、画面を見ると18:55であった。僕は一体何時間拘束されていたのだろうか。予定では、日本海に沈む夕陽を撮影する予定であった。


鉄道研究会の部員達は僕と同じホテルを予約していたらしく、明日の行程を話しながらホテルへ向かって歩いている。アリサから得た情報によると、明日の朝1番で出雲大社を詣でた後、松江城に向かい、名物のしじみラーメンを食べてから京都に帰るようだ。


「光も明日一緒に行くだろ?バタデンに乗りまくれるぜ。動画も作れるから一石二鳥だろ」

隣を歩いていた酒井が僕に尋ねる。


確かにみんなと観光しながら動画を撮影するのも悪くはない。しかし、僕にはやるべきことがあった。思い詰めたような僕の顔を酒井が心配そうに覗き込む。

「どうした?」

酒井の質問には答えず、僕は意を決してみんなを呼び止めた。

「みんなに言っておきたいことがある」

前を歩いていた部員達は歩みを止め、振り向いた。

「取り調べ中に考えていたんだけど、マッスルトレインさんを殺害した犯人を僕は見つけようと思う」

突然の宣言に部員達は戸惑いを隠せない。

「何を言っているんだ。それは警察の仕事だろ。きっしょいこと言うな」

田代が少し怒ったように僕を咎める。

「確かにそうなんだけど、僕を何時間も取り調べ室に監禁している時点で警察には期待できないよ。それに、不謹慎かもしれないけど、ちょっと興味をそそられているんだ」

「興味?」

木村が巨体を揺らして近づいてきた。

「そう。だってさ、マッスルトレインさんは部屋の中で殺されていたんだ。僕と同じ車両のシングルデラックスに泊まっていたから一人でいたはずだ。同乗者はいない」

「確かに変だな」

酒井が首を傾げる。その手には相変わらず小型扇風機が握られていた。

「マッスルトレインさんは背中からナイフでひと突きされて殺害されたみたい」

僕が取り調べで得た情報をさらに伝えると、アリサは田代に背後から近寄り、

「それなら、顔見知りの犯行ね」

と言って、携帯電話をナイフに見立てて刺すふりをした。

「ちょっと、やめてよ。きっしょい」

きっしょい、と言いながら田代はちょっと嬉しそうだ。

「マッスルトレインさんを殺害後、犯人は外で施錠して犯行現場を立ち去った、ってことか」

木村が頷きながら、結論づけた。

「凶器のナイフは見つかったの?」

アリサが僕の目をまっすぐ見ながら問いかけてきた。

「いや、警察はマッスルトレインさんの部屋はもちろん、僕の部屋やトイレ、ノビノビ座席まで探したみたいだけど見つけられなかった」

「じゃあ、犯人が持ち去ったんだね」

アリサはそう言うと腕を組んで考え込んだ。アリサだけではない、部員全員が何やら真剣な面持ちでそれぞれ思いを巡らせている。沈黙のときが流れる。そして、10数秒経過しただろうか、

「よし!」

の掛け声とともに沈黙を破ったアリサが、

「予定を変更します。北山高校鉄道研究会はこの事件の犯人を探し出します!」

と高らかに八百万の神に向かって宣言した。


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