第32話 第三の男
僕達は近くのファーストフード店で夕食を取った後、ホテルに戻った。その後、僕の部屋に集合することになった。
木村、酒井、田代、アリサの順で部員達が僕の部屋にやって来る。今夜は、僕がマッスルトレインさんと衝突したシーンを検証することになっている。
僕は事前にビデオカメラからメモリーカードを取り出し、YouTubeにアップロードしていたのですぐに問題のシーンを再生した。
サンライズの部屋の紹介や施錠の方法を説明し、階段を降りたところで映像が激しく乱れた。そして、今は亡きマッスルトレインさんが登場。さらに動画は進んでいく。僕が登録者の人数を正直に伝えるとマッスルトレインさんの柔和な表情が鬼の形相に変わった。
「怖いな」
木村が大きな身体を小さくして呟いた。
つづいて、マッスルトレインさんは散々暴言を吐いた後、僕を押しのけて大股で去っていき、動画は終了した。
「確かにモーちゃんが疑われるのも無理ないね。酷すぎる」
再び怒りが込み上げてきたのかアリサは眉間に皺を寄せて言った。
「でも、特に真犯人につながる情報はないな」
酒井はそう言うとベッドに仰向けで寝転んだ。
『確かに…』僕も同意見だ。しかし、何か見落としているかもしれないと思った僕は再び動画を再生した。しかし、手掛かりを得られずにマッスルトレインさんが去っていくシーンまで進んでいった。
「この時、他に通路に人はいなかったの?」
田代が欠伸をしながら言う。まだ19時30分を過ぎたばかりだが長旅で疲れたのだろう。
「いなかったと思うけど」
僕は必死に記憶を手繰り寄せようした。
「あ、そう言えば」
みんなの視線が僕に注がれる。
「マッスルトレインさんが歩いて行った方向とは逆の方に若い男が立って、こっちを見てた気がする」
「それ、先に言いなよ!」
アリサの大きな声が部屋に響く。
「警察は知ってるの?どんな男だった?」
アリサから質問攻めにあった僕は戸惑いを隠せない。
「いや、訊かれなかった。僕のことを犯人と決めつけていたようだからね。男の特徴は…ええと」
部員の鋭い視線が僕に突き刺さる。
「瘦せていたね。黄色い半そでのシャツを着ていたよ。多分年齢は二十五歳ぐらいかな」
「二十五歳ぐらいで、黄色い半そでのシャツを着た瘦せ型の男か」
酒井が天井を見ながら復唱し、ふと思い出したように、
「他にサンライズを撮影した動画はないの?」
と言った。僕はパソコンの前に座ると、
「サンライズに乗車する前に撮影したよ」
と言いながらメモリーカードのフォルダーを開き、サンライズの外観を撮影した動画のファイルをクリックした。
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