Ⅰ-Ex フライデー・アレストドラマ

挨拶のチョコボール

 ラインが止まって4営業日が過ぎた金曜日の朝、営業部のオフィスに入ると電話が鳴った。

「取りますね」

 私がそう言って受話器を取ると、ボイスチェンジャーで変えられたような声が響いた。記憶に新しい声だった。そう、犯行声明電話の声である。

「ラインの回復作業、ご苦労なことだ。回復したらまたやってやるよ」

 電話の相手はそう言って、ガチャリと受話器を置いた。

「犯人からの電話でした」

「そうか……近くにいるかもしれんな」

「そうですね……とりあえず通報しますね」

「逆探知装置はちゃんと動いてましたか?」

「ええ、警察にデータも送られているようです」

 私たちは犯人が自分から墓穴を掘ってくれたことを察した。そして十一時、待ち望んでいた報告が届いた。

「犯人が捕まったらしいぞ!逆探知と防犯カメラの記録から割り出せたらしい」

 社長が大声で叫びながら駆け下りてきたとき、私たちは心の中でワッと歓声を上げた。

「中島さんの見立て通りかな」

「どうでしょうね」

 昼休憩中の社員が集まり、テレビではニュース「オヒルデスヨ」が流れる食堂で、私たちは逮捕のニュースが流れるのを今か今かと待っていた。11月にしては異常な冷え込みに耐えるため、私の手は温かいそばの丼を触っている。

「今週月曜日にくろがね市内の電子部品メーカー『MARテック』のラインを破壊し停止させたとして、警察は市内在住の無職、棚本潔容疑者53歳を器物損壊及び威力業務妨害の疑いで逮捕しました。調べに対し、棚本容疑者は『MARテックと競合した結果経営していた工場が潰れた腹いせでやった」と供述し、容疑を認めているということです。また当初この事件は月曜停止魔によるものと思われていましたが、警察の捜査により月曜停止魔との関連はなかったと判明しました」

 中島さんが少し嬉しそうにニュースを見ている横で、私は中島さんにそっと拍手を送りながら温かかったそばをすすった。冷めたそばは、勝利の味がした。

「犯人、捕まったよ」

 茂樹くんにLINEを送る。

「ニュースで見ました。良かったですね」

「今朝脅迫電話かけてきたからたぶんそれ」

「ドジな犯人ですねぇ」

「犯人が墓穴を掘った感じかな」

「そうなりますね」

 食堂の皆が大喜びしている。社長の言葉に半信半疑だった社員たちなどは実際に歓声を上げている。

「やっぱり月曜停止魔とは関係ありませんでしたね」

「そうだね……そういえば月曜停止魔って何を目的にしてるんだろ」

「競合企業に雇われてるんじゃないかって話もありますけどね……」

「そんなとこだろうね」

「なにはともあれ私の推理は当たってましたし、万々歳ですよ」

「動機まで同じだもんね」

「競合相手に腹を立てて罪を犯すような短気な輩が MARテックうちに勝とうなんて、百年早いですよ」

「そうだね」

 私たちは笑いながらふと時計を見て、慌ててオフィスに戻った。昼休みがあと5分で終わるところだったからだ。

「ラインの修繕が終わりました」

 仕事終わりにはうるさいぐらいのラインの作動音が響き始めた。試験運転が始まったのだ。

「じゃあ、お疲れさま」

 私が家に帰ると、茂樹くんからLINEが来ていた。

「料理、いつにします?」

 私は返信を返した。

「明日頼もうかな」

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