趣味のジャンドゥーヤ
レジで9000円を支払い、店を出た。ラッピング用品を買いに行こうとすると、中島さんはまだ見たいものがあるという。少し待っていると、払い下げの水筒を買って出てきた。
「これかっこよくないですか?」
「おお……すごいね」
「来週からこれ持ってこよっと」
「中島さんってそういうの好きだったんだね」
「ええ」
「そういえば私、昔はそういうのが好きな人ってやばい人なのかなとか思ってたんだよ」
「ほうほう」
「それは違うって、高校生のときに知ったんだよね」
「へえ」
「今度時計をあげる予定の人が言ってたんだよ、『ミリオタは戦争が好きなわけじゃなくて、戦争を抑止する兵器が好きなんだ』って」
「たしかに兵器は戦争を起こしませんからね。戦争を起こすのはあくまで人間です。でも私がミリオタなのは、確かにそれもありますけどこの子達が可愛いからです」
「かわいい……?」
「分からない人にはまったく分からないですけど、ここがかわいい~とかあるんですよ」
「へえ……」
「まあ分からないならそのままでいいですけど」
「あっそう。包装紙見に行かない?」
「良いですね」
私たちは包装用品の専門店「パッケージミナキヤ」に入った。
「水玉がいいかな」
「パステルにします?ビビッドにします?」
「そうだなあ……店員さん」
「どうされましたか」
「段ボールで、時計が入るぐらいの箱ってありますか?」
「こちらにございます」
店員さんは水色の箱を陳列棚から取り出した。
「こちらでよければ」
「茶色ってありますか?」
「ええ」
「もう一つ聞いて良いですか?」
中島さんが店員さんにスマホを見せた。
「こんな感じのシールってあります?」
「ああ……少々お待ちください」
店員さんはレジにいた従業員さんにこう尋ねた。
「ソ連の旗にあるような鎌とハンマーのロゴステッカーって…」
「あるよ」
「どこにありますか?」
「ステッカー棚三列目の三段目」
「わかりました」
店員さんが戻ってきて、
「ご案内します」
と言った。中島さんは黒い鎌とハンマーのマークが入ったクリアステッカーを持って喜んでいる。
「これですよ、これ」
「ええ……」
「これ何かわかります?」
「ソ連国旗の……」
「いいえ、これは1955年以降のソ連国旗についていた鎌と槌のマークです。これを貼れば、多分相手のテンションが上がります」
「ほう」
「では、お会計に参りましょうか」
「包装紙は?」
「そうでした。包装紙は……これでどうです?」
「赤かあ……それよりは水色の方が……」
「ソ連の色は赤ですよ」
「ロシア軍の時計じゃん」
「まあそうですけど赤でどうでしょう」
「そこまでロシアで押さなくても良いんじゃないかなあ……」
「それなら……パステル水色の水玉12番でどうでしょう」
「めっちゃ限定するじゃん」
「これは星が入ってますからね」
「星……?」
「ソ連国旗は鎌と槌と……?」
「星……かあ」
「こういうところに隠しておくのがいいんですよ、あとで分かっても良いですからね」
「選んだの中島さんだって言っていい?」
「良いですけど……勝手にくっつけたりしないでくださいね?」
「もちろんだよ」
「じゃあお会計に行きましょうか」
「そうだね」
会計を終えて、時計を包装し終わった私たちは、街頭時計の前を通り過ぎた。
「もう6時半ですね……そろそろ時間じゃないですか?」
「そうね。じゃあ、ありがとう」
「いえいえ。頑張ってくださいね」
中島さんは私にグーサインを向けた。
「頑張るわ」
「アイアン鼻唄」へ戻ると、茂樹くんが突っ立ってスマホを見ていた。
「こんばんは、茂樹くん」
「こんばんは」
「早いね。何時に来たの?」
「ほんの十分前に来たところです」
「もう入る?」
「ええ、そうしましょう」
今日は敬語を使う人としか話してないな。私はそう思いながら、茂樹くんの後についてのれんをくぐった。
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