親睦が深まるきっかけって。

「そもそもさ、なんで二人は仲がいいんだっけ?」美奈子が尋ねた。

「えー? なんでだろうね。最初にバーであった時の話はしたことがあるような気がするけど。その後も顔を合わす様になって徐々にって感じだと思うよ。美奈子さんともそうでしょ?」

「言われてみればそうね」

「美奈子さんとの場合なんて、間違い電話が最初だったじゃない」

「そうね、人間、なにが起こるかわからないもんよねぇ」美奈子はそう言って、やや大きめのサイズに切り分けたワッフルを頬張った。


 直史はきっと、毎日家に帰るたびに留守電を聞くのを楽しみにしているのだ。それは恋とか愛とかではなく、サンタクロースがやって来るかもと期待する子供に似ている気がして、美奈子は微笑ましく思った。


 確かに涼くんの土産話は派手なものはひとつもないが、それはどこか子供の頃に読んだ絵本を思い出させる。一見、浮世離れしていると感じる涼くんが株の運用をしているというのも全く結びつかず、それが逆に彼の神秘性を底上げさせた。労働という言葉からかけ離れいつも非現実的な日常を送ってそうな彼が一番、現実的なのだ。かといって会社勤めが向いているとは思わないが。


 美奈子は一度、いつもの店で、涼くんと二人きりになってしまったことがある。しかも初対面の日だ。無論まわりに他の客はいるので完全に二人と言うわけではなく、共通の友人である直史が一時的に離席した。


 そう確か、直史といつもの店に立ち寄った際に、カウンタに彼が座っていた。その後ろ姿を覚えている。よく使いこまれてこなれた革製品みたいだな、と思った。直史が互いを紹介し、ボックス席に移動した。


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