チェコってどのあたり?

 直史が口を開く。

「涼くんも誘えたらよかったね。サバゲー」

「連絡ついても、来るかなぁ」フォークでミントをすくい、皿の端に寄せて美奈子が言った。

「来たら楽しいと思うのに」

「きっと開始直後に負けるか、笑顔で全員ぶったおすかの2択よね」

「それは言えてるね」

 直史は目線を上に送った。そこにスクリーンでもあるのだろうか。写っているとすれば、素早くフィールドを移動し、巧みにハンドガンを操る朝比奈涼の姿だろう。


「スパイ戦にして敵地に送り込みたい」と、美奈子が言うので、直史は「ふふっ」と吹きだした。敵地ですました顔をし、1人1人確実にヒットさせていく涼くんをイメージすると、それはとてもしっくりきてしまった。


「いまなにやってるんだろうね」美奈子が聞いた。

「噂では株で稼いだお金で日本を離れたって」

「誰の噂?」

「風の噂」

 直史はコーヒーに口を着ける。ワッフル以外こだわりはなさそうに見えたが、この店はドリンクメニューも充実していた。人気なわけだ。


「ほんとのところ、留守電が入ってて、チェコに行くって」

「なんでまたチェコ?」美奈子は頭の中にボンヤリとした世界地図を広げた。どこなのかパッと思い浮かばない。地理は苦手だ。

「それは帰ってきたときに聞く楽しみじゃないか。おおかた壁に貼り付けた世界地図にダーツでも投げて決めたんだよ」

 ケラケラ笑いながら直史を見て、美奈子はつくづく”こいつは本当に涼くんが好きで、いつも必ずこの街に戻ってくるんだって信じてるんだなぁ”と思った。幸せ者である。ふと、彼女が尋ねた。

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