甘い香りに気分もほぐれ
店内はほぼ女性客で埋まっていた。
ラフな格好で体格のいい直史が入店すると別の意味で目立ったが、美奈子のおかげで緩和された気がした。
こういった店は、美奈子にはあまり縁がなかったが、「直史も喜んでるし、たまにはいいか」と軽い気持ちで入店した。
1人では絶対来ないだろう。店内に充満する甘い香りと、パステルカラーの色どり、散りばめられたレース模様に、自分たちは場違いではないだろうかと彼女は少し心配した。
2人は華奢な椅子に身体をうずめている。2人とも、どちらかといえば身体は大きいタイプだ。贅沢を言えばソファ席でゆったりしたかったが、人気店のため混雑しており、入れただけでもラッキーだと直史は思った。
ちょっと窮屈に感じるが、こんなカワイイ椅子に座れるのも、美奈子と一緒に来ているからである。そんな美奈子はメニューを睨んでいた。迷っているらしく眉間にシワが寄っている。
一方の直史は、瞳を少女のようにきらめかせている。直史が顔を上げると、美奈子がブツブツと何かを言っていた。よく聞いてみればカタカナで埋め尽くされたメニューの音読で、それはまるで呪文のようだった。
直史の誘導により、ようやく美奈子もメニューを決め、やがて大きな皿とカップが2つずつ運ばれてきた。器用にナイフとフォークを使って食事する直史を横目に「こいつは意外と品があるんだよな」と美奈子は思いつつ、口いっぱいに広がるベリーの風味を楽しんだ。口の端についたホイップをペロリと舐める。甘さのほとんどない、クッションみたいなクリームだった。
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