少し酔わせて
瞳の輝きとマッチしたメニューを次々頼むと、たちまちカウンターは皿でいっぱいになった。しかも気を利かせてくれた店のオーナーが、1人分の量と値段にしてくれたらしい。そんな気遣いもあってか直史はオーナーと言葉をかわした。
「この通りにこんな店があったなんて」店内を見まわしながら直史が言った。
「初めて来てくれる人はみんなそう言ってびっくりするよ」
オーナーは素早くグラスを吹き上げながらにこやかにそう言った。少し早口なのは仕事上のクセに見えた。年齢は自分より10ほど上なのではないか。オーナーにしては若いことは確かだ。髪を七三に分けて清潔感がある。スーツを着たらそのまま会社に行けるだろう。
「料理は口にあいましたか?」
「ええ! すっごく! 上手いですねこれ! 特にこのジャーマンポテト!」
直史はそう言いながらフォークでポテトを突いた。スキレットにざっくりと盛られたポテトとソーセージはいつまでも熱いままで、真ん中に乗った卵黄がとろけてまろやかな味わいになっている。
「このポテトひとつあれば嫌なことなんてすぐ忘れられそう…!」
「嫌な事ねぇ。お兄さん、ここに入って来たとき、ちょっとショゲてるように見えたよ?」
「ええ? わかっちゃうもんスか。まぁ…。しょうもないことなんでスけどぉ……」
直史は追加のドリンクを飲みながら経緯を話し始めた。少し酔っている自覚はあった。だから話せているのだ。
先月末に合コンで知り合った女の子だった。グループで出かけた後に電話番号を交換しデートにこぎつけたが2時間たっても彼女は来なかった。共通の友人にも電話してみたが、友人はきまずそうに「今日あの子はデートって聞いたけど」と口にした。
つまり別の人と会ってる線が濃厚だ。2時間待って来ないのだから。
それで勢いあまって初見の店にやって来た話をすると、オーナーはけらけら笑って「災難だったねぇ」と言った。手際よくドリンクを作りトレイに乗せると、スタッフがそれを運んで行った。
それをぼんやり眺めつつ直史も笑った。災難というか、今回は女運が悪かったのだ。週末は気を取り直して雑貨屋にでも行こうかな、気になってたグッズ、この際買ってしまおうかな……などと考えていると、1席あけた隣に若い男がやってきた。
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