騎士ジョアンは修道女エリシュに随伴する。18


 ミラシア王のいま話は本当だろうか──王族の血に魔術師の因子が混じることなど、ありうるのだろうか? ジョアンは思わず修道女エリシュの方を振り向く。エリシュはただ静かにうなずき、ミラシア王の言葉に偽りがないことを示した。

「陛下がおっしゃったことは本当のことです」とエリシュはきっぱりという。「御子に対する洗礼の儀式自体は、実際には正午には終わっていました。そのとき、陛下自身の血を検めるように頼まれたのです」

「連続で秘儀を?」とジョアンは声を上げる。慌てて修道女のすぐそばまで駆け寄り、その身体を支えるようにした。

「なんて無茶なことを! いくらエリシュ様だからといって、そのようなことをしてはお身体が……」

 すぐ近くで見てみれば、修道女エリシュはすっかり体力を使い果たしているようだった。日が暮れていてよくわからなかったが、顔も青ざめていてどこか息苦しそうだ。

 なんてことを頼んでんだミラシア王! ジョアンは罵りたくなるのを、歯を食いしばってぐっとこらえた。そしてどうすることもできない自分をふがいなく感じた。

 騎士ジョアンに支えられながらも、修道女エリシュは続ける。

「とはいえ、その結果は明らかでした。陛下の血には魔術師の因子が宿っている。──そして、かつての姉妹メリーラは、それを知りながら、黙認したのでしょう」

 聖堂の中には、しばらくの沈黙があった。燭台にともされた炎が揺らめいている。白磁の聖女エレイン像は変わらずじっと中空を睨みつけている。

 近衛隊長は愕然として、首を振った。そして絞り出すように言う。

「そんなこと、ありえない……」

 近衛隊長にとっては、にわかに受け入れがたい話なのだろう。心の整理がつかないようで、彼は情けない顔で視線をさまよわせるしかない。

 ミラシア王は重々しく口を開く。

「余の血には魔術師の因子が混じっている。王としてはあるまじきことだ。本来ならば死ぬべき身だった。……今からでも、死ぬべきと思うか?」

「──滅相もございません!」近衛隊長は、途端に姿勢を正した。「私は、陛下に取り立てていただいた身です。私だけではありません、近衛隊の多くも同じです。その大恩を忘れたことはありません。死ぬべき身などとは、到底、考えられません」

「そうか。であれば兵を引け。今日の挙兵は不問に付す」

「仰せのままに、陛下──」

 近衛隊長は跪き、首を垂れた。

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