騎士ジョアンは修道女エリシュに随伴する。15
その時、聖堂の扉が開かれた。その場にいた全員がその方を見る。
現れたのは修道女エリシュ一人。彼女は神妙な顔で──つまり普段と変わらない様子だった。長時間にわたる儀式の疲労も表には出さず、平然としている。ただし、聖堂の外の騒動には気づいていなかったようで、武装したまま居座っている近衛兵の姿を見ると、少しばかり怪訝そうに眉をひそめた。
儀式の結果を伺う儀礼的な役目をこなすため、宰相は立ちあがった。しかしそれと同時に、後ろに控えていた近衛隊長が飛び出した。彼はは宰相をわきへ突き飛ばし、つかつかと修道女の方へと歩み寄る。
すわ、あの男を切り伏せるか──とジョアンが剣を抜こうとしたが、近衛隊長は修道女に向かって跪いた。頭を下げ、吠えるようにいった。
「修道女様! 是非に、公正なご判断を──」
「御子は、王位継承者として相応しいでしょう」と、エリシュは何の気なくにいった。
その場にいた人々は、息をのんだ。
近衛隊長は驚いたように顔を上げた。かがり火に照らされたその顔は愕然として目を見開いている。
修道女エリシュは、冷徹な顔で見下ろした。
「それが公正な判断です」
「違う、そんなはずがない!」と近衛隊長は悲痛な声を上げる、「宰相閣下は──あの男の血は汚れている、魔術師の血が混じっているんだ!」
「仮にそうだとしても、御子にはその因子は引き継がれませんでした。修道会が判断するのは、あくまでその子自身がもつ因子のみです。……たといその親がどうであろうと、わたしが下す結論に変わりはありません」
エリシュはきっぱりと言い切った。
近衛隊長は呆然とした。信じられない、と頭を振りながらあとずさる。聖堂を取り囲む近衛兵の一団にも動揺が走り、どよめきが起こる。
やがて、近衛隊長の表情には怒りが宿った。そして絞り出すように言う。
「修道女様、あなたは騙されているんだ……それとも、やはりあの男から、いくらか握らされたのですか?」
「──おい、お前」とジョアンは近衛隊長を睨みつける。修道女をかばって前に出る。「さっきから黙って聞いていればな。他でもない修道女エリシュ様に対しては口の利き方に気を付けろよ」
近衛隊長も、剣の柄に手をかけた。そしてにらみ合う。
「騎士殿、われわれはこの国の正義のために立ちあがったのだ──今からでも、先ほどの誤った判断を撤回してはもらえないか。そして本当の、正しい判断をしていただきたい!」
「……」
口で言ってもわからないのなら、とジョアンはこの場で奥義を使うことを決意した。
近衛兵たちも色めき立ち、近衛隊長を援護するべく武器を構えた。
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