騎士ジョアンは修道女エリシュに随伴する。7


 あくる日、修道女エリシュと騎士ジョアンはミラシア王都の王城へとたどり着いた。

 華美ではないが堅牢で実用的な城壁は、見るものを圧倒し、身をすくませるようだった。石造りの重厚な古城には儀仗隊が整列しており、二人を待ち構えていた。

 ミラシア王の紋章旗が飾られた長い廊下を抜け、二人は王座の間に通され、ミラシア王との謁見と相成った。

 ミラシア王とエリシュが儀礼的なやり取りをしている間、騎士ジョアンは手持ち無沙汰だった。修道女を護衛する騎士として、外交儀礼上の役割を課せられていないのはむしろ気分が楽だったが、それはそれとして退屈である。

 なるほどこれが王様というものなのか、とほかにすることもないジョアンはしげしげと玉座の方を見た。

 番紅花染めの衣と、金の指輪。ミラシア王は頬から顎にかけての髭を蓄えている男だった。その身なりや顔立ちからは高貴な血筋を感じ取れるが……どこか線が細く、肌の色の感じも併せて、不健康な印象のある人物だった。ずっと年若いエリシュに対しても軽んじるところはなく、敬虔さを感じさせるが、一方で気力と体力の弱さを暗示しているようだった。

 対照的に、そのすぐ横に控える壮年の男は、灰白色の瞳から発せられる鋭い眼光とともに、強い存在感を周囲に放射していた。攻撃的なまでの疑り深い視線で、王城にやってきた二人──不相応に若い修道女と、同様に若い上に不遜で生意気そうな騎士──を値踏みし、見定めようとしている。この男が、噂のこの国の宰相である。

 なるほど人から恨みを買いそうな男だな、とジョアンは心の中でその宰相を評価した。この男が自分の娘を王に嫁がせて更なる権力を手に入れようとしているのならば、それを快く思わない人間もいるのだろう──とここで宰相から睨み返されたので、ジョアンはしれっと視線を逸らした。

 挨拶もそこそこに、ミラシア王は切り出した。

「──ときに、メリーラ様の最期は?」

「姉妹メリーラは正念の臨終を遂げました」と、エリシュは慣例的な受け答えをした。

「そうであったか……。メリーラ様には、実に長い間、世話になったものだ。余の冊立も、他でもない彼女に施された洗礼によるものだ。この国の鎮護があったのも、彼女があってのことと言えよう……」

 ミラシア王はしみじみとつぶやくように言った。

 あのごうつくばりの老婆に対して随分ともったいない言葉だな、と脇で聞いていたジョアンは思った。

 修道女メリーラは、ミラシア王権に対する洗礼の儀式の前任者である。この修道女が病没したため、エリシュがその後任となったのだ。

 メリーラは確かに高位の修道女ではあったが、本山において尊敬を受けているとは、とうてい言えない人物であった。喜捨の着服を手始めに、自らの権勢のために党派の組織したり、近しい者に便宜を与える一方でそうでない者を露骨に疎んで見せたり……ジョアンにとっては、修道会の腐敗の象徴の一つだった。

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