騎士ジョアンは修道女エリシュに随伴する。5


 部屋に湯桶が届けられると、二人は客室に備えられている浴室へと移った。ジョアンは鎧を解いたが、それでも短剣を浴室まで持ち込み、手が届くところの壁に立てかけた。

 粛々と上体を清め終わると、騎士ジョアンは跪き、修道女エリシュの右足を持ち上げようとする。

「……姉妹ジョアン」

 むず痒そうな声。視線を上げると、湯の熱気で上気した修道女の顔があった。抗議するように眉が顰められているが、ジョアンは気にせず修道女の右足を取り、丁寧に洗い始めた。

 やわらかい肌、小さな指、丸いかかと──まるで子供の足のようだ、とジョアンは思った。自分のごつごつして皮膚が厚くなっている手と比べると、なんて繊細なつくりをしているのだろうと思った。無論、修道女エリシュはただのお嬢様なんかではなく、十度もの峰入りの荒行をこなした修行者であり、足を一つ取ってみてもその名残は見て取れるが、しかしそれはこの修道女がもつ生来の美しい形を少しも損なってはいなかった。

 一通り洗い終わり、磨き終わった修道女の右足を、騎士ジョアンはじっと見つめる。少し持ち上げて、顔に近づけてみる。その美しい形を眺めていると、ふと、不思議な気分が腹の底からわいてきた。

 このつま先を口に含んだら、いったいどんな感じがするのだろう──

「姉妹ジョアン」

「……はい、エリシュ様」

 ジョアンは名残惜しそうに右足から手を放し、次の左足に手をかけた。

 その後、エリシュの全身をくまなく磨き終わってから、ジョアンは手早く自分の身を清め、二人はようやく浴室を出た。

 就寝の支度を終えたエリシュは、寝台に横になった。仰向けになり、そっと目を閉じる。旅の疲れが降り注いでいるようで、その身体はゆっくりと緊張がほぐれていき、やがて脱力した。──その様子を確認したジョアンは、満足げにうなずいた。

 幼い少女のような寝顔──修道女エリシュのその寝顔を眺めていると、ジョアンは昔のことを思い出さずにはいられない。二人とも、まだ幼かったころ、初めて会った時のこと。

 エリシュ様は覚えていらっしゃるだろうか、とジョアンはふと思った。覚えておいでならそれは嬉しいが、けれど、べつにどちらでも構わなかった。あの時の記憶は、ジョアンの胸の中に封印されたまま残り、一生消えることがないのだから。

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