第17話 会場内でのトラブル!?

 

陸野は通信手段である携帯電話のスマートフォンを紛失してしまったという。

「そりゃ大変だ!」

「えー、未祐ちゃんスマホなくしたの!?」

「まずいじゃん!」

 それを見ていた小宮とサークル机越しに深山も驚く。

 今の世の中、通信手段である端末を落としてしまうとほぼ何もできなくなってしまう。

 行きや帰りの路線を見たり、マップを見ることも、他の人と連絡も取ることもできなくなる。

 何よりスマートフォンは個人情報が満載だ。落としてしまったとなれば誰かに見られたりしたら大変なことになる。

 これだけ人が多い混雑するイベントでは連絡手段のスマートフォンが命綱のようなものだ。 

 スマホがあるからこそ離れてしまっても合流することができる。

 しかしそれをなくしてしまうと山で遭難したようなものである。

「宅配便の時とかさっきコスプレ広場にいた時にはあったのに」

「だよね、さっき写真撮る時持ってたもん」

 先ほどコスプレ広場に居た時は小宮の写真を撮ろうとしてその際にスマートフォンを持っていたのだからあの時はあったのは間違いない。

「ということはここに来るまでの中で落としたってことか」

トートバックの口から何かの拍子で落としてしまったようだ。

「こんな広い会場でスマホを落とすなんて……どうしよう」

 陸野は今にも泣きそうな顔だった。

「スマホの中にスイカ入れてたからスマホがないと電車乗れなくて帰れない。せっかく恵子の写真を撮ることもできたのに」

 スマートフォンをなくす、それはこれまでのデータもすべてパーになるし、帰り賃までもがなくしてしまいこういったイベント会場では一大事だ。

「どっかこの辺に落ちてないか探してみるんだ」

 大勢の中で足元を見て陸野のスマホを探す。

 陸野のスマホはこの前コラボカフェに行った時に買ったコールドエンブレムの推しキャラであるユイロのコラボカフェ限定ラバーストラップが取り付けられている。

コラボカフェ限定のデザインなのだからそうそう持ってる人も多くはないはずだ。

「こんな大勢人がいる場所で足元見るなんて無理よ」

 小宮がそう言った。

 確かにこのイベントホールは特に混雑していて常に人が密集している。

 その中で足元を探してみるなんて無謀な話だ。

 もしかしたらとっくにスマホなんて踏みつぶされているかもしれない

「こういう時は案内所に行ってみるんだ。もしかしたら届けられているかもしれないぜ」


 俺達はそう思い、サークル主である深山をサークルスペースに残して案内所へとかけつけた。

 ホールの入り口にある案内所に落し物が届けられていないかと尋ねてみたがいつくかスマートフォンや財布といった落し物はあったものの、陸野のラバーストラップがついたスマートフォンの届け出は今のところなかった。

「案内所にも落し物はなし、か……」

「届けられてないなんて……本当にどうしよう」

 陸野は悲しそうな表情でうろたえていた。

 スマートフォンの中には大切な情報やデータがつまっている。なおかつ中にはスマホマネーも入っているとなると落としたことは一大事だ。

 しかも陸野は今日、小宮と仲良くなったことで小宮の貴重な姿の写真を撮っていた。

 それを失うのは辛いことだろう。

「せっかくコラボカフェ限定のラバストもついてたのに一緒に落としちゃうなんて……」

 陸野はコラボカフェの限定グッズが大切だからこそいつでも肌身離さぬようにスマートフォンにつけていたのだ。

 それも落としてしまったとなるとショックも大きい。


 案内所には届けられていなかったので俺達はもう一度深山のサークルスペースへたどり着くまでに通った場所と同じルートをたどり始めた。

 先ほどスマホを落としたことに気づくまでに同じ道を再び足元を見ながら通ればもしかして落ちているスマホを発見できるかもと期待してだ。

 しかしやはり人の多さで床を見ようとしてもなかなか足元を見ることすらできず、人の足ばかりが見えるだけで床は見えてこない。

 会場内を行き来する人々の足ばかりが見えてえ靴が見えるだけで落し物を探すどころではないのだ。

 そうしているうちに再び深山のサークルスペースの前まで着いてしまった。

「落し物、見つかった?」

 先ほどの一部始終を見ていた深山は俺達がサークルスペースの前にたどり着くとそう聞いて来た。

「だめだった。案内所にも届けられてないって」

「えー。案内所にもなかったの? 困ったね……。何か私でも手伝えることがあるといいんだけど……」

 深山は困っているクラスメイトを前に何か協力できないかと申し出たがかといって落し物はどこにあるかがわからない。

「こんな人の多い会場でなくしたんだもの。諦めるしかないよね……」

 陸野はすでに諦めモードに突入していた。

「最後まであきらめるなよ。きっと誰かが拾ってくれてるって」

 俺はそう励ました。


 案内所にもない、ここに来るまでのルートは探した、他に方法はないか……。

ふと、深山の机を見ると、サークルスペースのナンバーが目に入った。

 俺はそれを見た時にある方法が閃いた。

「そうだ。まだ手はある! 小宮、深山、協力してくれ」

 俺はその思いついた方法を説明する。

「確か小宮はコスプレ用アカウントのツイッター持ってたよな、深山は創作用アカウント持ってたはずだよな」

「うん。あるけど」

「それがどうしたの?」

 そして俺はその方法を言った。

「俺達のツイッターで落し物を探しています、ってツイートするんだ。コールドエンブレムのコラボカフェ限定デザインのラバーストラップのついたスマートフォンを探してますって。それをコミケのハッシュタグ使って」

 ツイッターはいわゆるネット上へリアルタイムで情報を集められるアプリだ。

 もしかしてそのツイートを見かけた人が一緒に探してくれるかもしれない、と他力本願だがコミケ会場の一般参加者がそのツイートを見てくれることにかけている。

「深山のサークルスペースのナンバー出していいか? ここに届けてって」

「ここのサークルナンバー出しちゃうの? それっていいのかなあ……」

 本当ならばサークルスペースを待ち合わせの場所にしたり、目印にするなどこういった利用をするのはよくないのだ。

 それにサークル主の深山がそれを断ってしまう権利だってある。

 下手をすれば個人情報をネットに晒しかねることにもならない

 誰だって目立つ場所に自分のサークルを見世物のようにネット上に明かされたくない

「でも、クラスメイトのためだもの、こういう緊急事態だし、いいよ」

 深山はそれを了承してくれた。

「悪いけど、小山のことも書いていいか? サタンフォーチューンのユニーのコスプレイヤーと一緒にいますって」

 コスプレイヤーはこの大勢の参加者がいる会場内でも特徴的な外見なので一般参加者よりも目立つ。それならば拾った人が俺達を見かけて話しかけてくれるかもしれない。

「なんか目印にされたみたいね……でもいいわ。未祐の為にこのコスプレが役に立つのなら」。

「ありがとう。じゃあ小宮と深山もツイートを拡散するのに協力してくれ」

「なんてツイッターに書き込むの?」

 スマホを今持っていないために話に入れない陸野は聞いた。

「拡散希望。友人がスマートフォンを落としました。コールドエンブレムのコラボカフェ限定デザインのラバーストラップがついたスマホです。もし見かけた方は『こ』ー二十三bの「リバーマウンテン」へ届けてください。もしくは会場内でサタンフォーチューンのユニーのコスプレイヤーと一緒にいます、とこんな感じだ。」

 SNSのアカウントでこんなことをした場合、もしもこのツイートを拾った人がこれを見た場合そのツイートを見かけた人がこの会場にいればアカウント主である俺達のリアルの姿が知られてしまう。

 コスプレイヤーで元々ネット上に顔を出している小宮ならまだしも、サークル参加者の深山や一般参加者の俺と陸野の姿は見られてしまうことにも抵抗は多少あった。

 しかしここは同人誌即売会、それもコミックマーケットという大型のイベント会場だ。

 元々イベント会場では「こういうTシャツを着ているから会ったら僕と握手!」っといったノリや「こういう痛バッグを目印に持ち歩いているから見かけたら話しかけてください」といったいわゆるエンカウントを求めてわざと目印をSNSに書き込み、すれ違いを楽しむという文化もある。

 つまりこういうイベントだからこそ、SNS上でのアカウント主とリアルで会うことも不思議ではないイベントなのだ。

 そうやってエンカウントして会場内で会った人々もリアルで会った人を「どんな外見でどんな人だった」といったプライベートなことはネット上に明かさない、というスタンスを保ってくれる人が多いと信じての行為である。

 もちろんネット上の人がすべて信用できるわけではないけど。

「よし、俺はツイートしたぞ、深山と小宮もやったか」

「うん、落し物を探していますツイートを流したよ」

 こういう時こそ、フォロワーが五千人もいる俺のアカウントが役に立つ時ではないだろうか。

 フォロワーも同じくオタク趣味でコミケに参加する人も多いだろう。

 それならば俺のツイートを見て同じくコミケ会場にいるフォロワーがさらに拡散してくれるとなれば同じくこのコミケ会場内にいる大勢のアニメクラスタにこのツイートが見られる可能性が高い。

 SNSやフォロワーをこんな都合よく利用するのは本当はよくないかもしれないが陸野の為だ。 あとはこれに掛けるしかない。

 さっそくツイッターの反応を見ると、さっそく約七十人ほどがリツイートをして拡散してくれていた

 俺達はツイートが拡散される間、もう一度案内所を周ることにした。

 もしかしてまた時間を置いたことで落し物が届けられる可能性を見てだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る