第13話 イベントに行こう大作戦

 

 期末試験も終わり、残りの日数を過ごせばもうすぐ学生には待ち遠しい夏休みだ。

 しかしとうとう目的の三人を夏休み前にアニメ研究会に引き込むという作戦は達成できなかった。

 だが俺には夏休みにこそ作戦があるのだ。

 目的の三人をアニメ研究会に入部させるにはまず三人にアニメやサブカルチャー文化の良さを知ってもらうことだ。

 それには三人が好きそうなイベントに誘い、そこでお互いのオタク度を認知させることである。

 といえば聞こえはいいがつまり三人をイベントで会わせてクラスメイト同士打ち解けさせて三人が仲良くなれば部活に勧誘するのも簡単なのではないかという俺のたくらみだ。

 一人でアニメ研究会というオタクっぽい部活に入るとオタサーの姫のような扱いで嫌かもしれないが、三人がそうやって打ち解けたところで同時に誘えばクラスメイト同士で心強いということだ。

 そう思った俺は、なんとかその作戦を遂行することにした。

 深山はすでにサークル参加という形でコミケに参加することが決まっている、ならばあとの二人もそのイベントに誘えばいい。

 コミケならばまさに小宮にとってはコスプレイヤーとしてのコスプレ参加の本領を発揮できる場所である。

 陸野は一般参加という形でそこに行かせる。

 そんな作戦で三人を引き合わせる作戦だ

 そう思った俺はさっそく行動に出してみる。



「陸野、お前イベントって興味ないか? 今度の夏休み、アニメや漫画とかが好きなオタクが集まる祭典があるんだけど」

 朝のホームルーム前の教室で、俺は前の席の陸野に話しかけた。

「イベントって?」

「夏休み中旬くらいに開かれる、コミックマーケットってイベントだ」

「ああー。ニュースとかネットで見たことある。大型同人誌即売会ね。よくフォロワーさんも参加してるのをツイートで見たことあるから知ってる。アニメとかゲームの同人誌のフリマみたいなものだよね」

 陸野は意外とそういったサブカルチャー文化についての知識はそこそこあるようだ。

 よかった、まずは「コミケって何?」という部分から始まるのであれば話は面倒だがさすがにツイッターをやっている陸野はすでにそのイベントの存在を知っていた。

「アニメの同人誌って前から興味はあったんだけど、買ったことないなあ。値段が高くて。コールドエンブレムの同人誌とか買ってみたい」

 どうやら陸野は二次創作反対派ではないようだ。

 しかも同人誌に興味があると、ここまで話がわかるのであれば話は早い

「よかったら今年の夏はそこへ行ってみないか? もしかしたら楽しいことがあるかもしれないぜ」 

 いけしゃあしゃあと俺は陸野をコミケに誘った。

「え、夏休みに? でも私、そういうイベントとか行ったことないよ。なんか凄く暑そうだし、人が多くて大変って聞くけど」

 さすがに夏コミの過酷さはよくニュースでも報道されるだけに知っているようだ。

 会場内の暑さは熱中症注意報が出るし、実際に救急車で運ばれたものもいるくらいだ。

「俺、中学時代にもコミケ行ったことあるんだ。今年はコールドエンブレムのサークル多いみたいだし、陸野もどうかなって思って。俺一人で行くのもあれだし」

 事前にpixivで見れる情報でチェックしていたところ、コールドエンブレムはまさにアニメ放送中ということで原作の連載当初からのファンが数多く今年の夏コミにサークル参加をしているという情報も熟知していた。

「企業ブースにはコールドエンブレムの制作会社も出店するからグッズもあると思うぜ」

 そしていかにも陸野が食いつきそうな話題で釣る。

 その言葉を聞くと、陸野はギラっと目を輝かせた

「じゃあ行く! 行きたい!」

 やはりコールドエンブレム関連になると陸野は飛びつく。

 このまま陸野と一緒にコミケに一般参加をしてそこでコスプレ参加とサークル参加をしている小宮と深山に会わせる算段だ。

「じゃあ、一緒に行こうぜ」

 これで陸野をコミケに連れて行くことができる。


 昼休みになり、小宮がいつも一人でいる例の場所へと俺はやってきた。

 今日も小宮は一人であの鏡の前にいた。

「よう。前に撮った写真の評判はどうだ」

 以前スタジオ撮影した際に撮った画像はいずれSNSに投稿する、といっていたことを思い出し小宮に話しかける。小宮は答えた。

「この前ツイッターにアップしたスタジオ撮影の写真、結構好評であれからいいねとか結構もらってさあー」

「へえ。じゃあさっそくスタジオ撮影した意味はあったんじゃないか」

 実際にネット上に投稿してそこそこの評価をもらえているならば成功だ。

「そんでフォロワーさんにコミィさんはイベントとか参加しないんですか?」とか聞かれてて。それで夏休みに何かイベント参加してみよかなって」

 小宮はそう言われとうとうイベント参加を本気で考えているところまで来たのだ。

「じゃあ夏コミにコスプレ参加してみればいいんじゃないか?」

 そこへ畳みかけるように俺は自然にコミケの話題を出す。時期も夏休み中なのでぴったりだ。

「でも放送からそこそこ経ったアニメのコスなんてすでにオワコンっていうか流行おくれじゃない?」

「そんなことないぜ。コミックマーケットは十年前とか二十年前のアニメやゲームのサークルだって数多く参加しているからコスプレ参加だって流行とかに囚われない領域でどんなコスプレでも参加OKなんだぜ。昔のアニメだからやっちゃいけない、なんてルールもないし」

 もちろんコスプレ参加はやはり放送中のアニメとか最新作の流行コンテンツのコスプレが多いがそれでも以外に放送が何年も前のアニメや発売が十年以上前のゲームのキャラクターでもコスプレイヤーも結構参加しているのだ。

「もしかしたら、イベント参加でお前がサタンフォーチューンのコスプレを披露することで、そのアニメに興味を持つ人が出るかもしれないし、お前のあのクオリティ高い衣装を大勢に見せられるチャンスでもあるぞ。何より、大勢の前であの衣装を披露できるしな」

「うーん、じゃあ夏コミ、参加してみようかなあ」

 小宮は悩んでいるところまできたのならばあとひと踏ん張りだ。

「そしたら俺、コスプレ広場へまた撮影の手伝いしに行くぜ、俺もちょうど夏コミに行く予定だか。」

 そしてさりげなく自分もコミケに参加することを伝える

「江村も夏コミ行くんだ! じゃああたしも一応一眼レフ持っていこうかな」

 初対面の時はとげとげしていた小宮だがスタジオ撮影というイベントを得て、少しだけ話しやすくなった。

 これもスタジオ撮影に協力した成果だ。


 こうして夏休みの予定は決まり、あとは夏休みが来るのを待つだけだ。


 うまいこと陸野と小宮をコミケ参加へ行かせて、あとは深山のサークル参加が当日までに締切を落とす、なんてこともなく無事にサークル参加が叶えばあとは作戦通り。

 会場で三人を会わせて打ち解けさせるのだ。

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