第26話 階段

「この下って何があるか分かるエリ?」

「え?下っ?」

 俺は食料庫に入ったことがないからよく分からないのでひとまずエリに確認をとるが、エリは首を傾げてきた。

「……何これ?私知らないよ」

「えっ?」

 だがどうやらエリもその階段については知らないようだった。

 可能性としてはエリに知らされてないか、それともダインさん達すら知らない何かか……。

 とにかく確実に言えることは変質者はこの下にいることだろう。

「とにかく下に降りてみる?」

「うん……。そうだね。でもここからは本当に慎重に行くよ。エリはいつでも逃げられるように背中に隠れていて」

「わ、分かった……」

 本来ならここで一度ダインさん達を呼びに行けばよかったんだけど、緊迫した状況や迷惑をかけたくないという考えから、変質者を追って下へ降りることにした。


 階段の中は薄暗く、申し訳程度に明かりが灯されていた。

 見た感じそこまで深いものでもなく、少し進むとすぐに扉が出てきた。

 木製で出来たその扉に耳を当てると中から僅かな音が聞こえてくる。

「……どうするタイチ?」

「……これは不味いかもしれない。中には複数人もいる。まさかここが連中のアジトなのか?」

「……えっ?私達の家にアジト?」

 そんなことは絶対にないはずだ。

 俺だってエリと同じ気持ちだった。

 でも中を聞く限り中からは複数人の話し声と物音が聞こえる。

 ここが変質者の家なんてことは絶対にないとすると、やはりここが連中のアジトとしか考えられない。

「とにかくここは一度戻って助けを呼んで……」

 複数人相手には前回痛い目にあったのを覚えているので、ここは素直に引き返す。

 そう思って階段へと戻ろうと動こうとすると、


 コツン。


「――誰だっ!?」

 つい小石を踏んでしまい、扉の中から声が響く。

「くそっ、逃げろエリっ!」

「え、えぇっ!あ、えぇ、うんっ!」

 突然のことにパニックになっているエリに逃げるように指示を出し俺は正面を見据える。

 すると扉が勢いよく開かれ、そこから予想通り複数の男達が出てくる。

 ……くそっ。とにかくここで時間を稼いでエリにダイチさんを呼んできてもらうしかない。

 とにかくエリだけは絶対に守る!

 エリを背にして俺は時間稼ぎのために拳を構える。

「――くそっ、侵入者だ!とにかく逃げられる前にすぐに捕まえるぞっ」

「「……え?」」

 だがその瞬間、中から聞こえてきた聞き覚えのある声を聞いて俺もエリも固まってしまった。

 そしてそこから出てきた見知った人物が俺達を捕まえようと腕を伸ばしてくる。

 その人物に驚きながらも、俺はすぐに意識を戻して必死に抵抗する。

 だが、俺なんかの力じゃ時間を稼ぐことも出来ずにあっさりと捕まってしまった。

「はぁ……まさか君たちがここまでたどり着くなんてね」

 俺はその人物――リアスさんのため息混じりの言葉を聞きながら、エリと共に扉の中へと引きずり込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る