第12話 距離感
「――う〜ん……、ごめんなさい。私この小説よく分からなかったわ……」
「そ、そうだね……」
俺はこの世界の文化について何も考えてなかった。
今回、俺が書いた小説はよくある学園物の物語だった。
だけどこの世界にはどうやら学校がない。
そしてたとえ学校があったとしても、モンスターがいたり、魔法があるような世界からすれば俺達の世界の日常などまさに異世界だ。
俺だっていきなりその世界の説明がなく、あり得ないことが当たり前のように行われている物語など面白くもなんともない。
……この世界に萌えを流行らせるには、この世界にしっかりとあったものを作らないとだめだな。
「え、えっと……その……」
「気にしないでいいよっ。ちょっとこれは俺の故郷で遙か昔にあった物語をいじっただけだから。ちょっとよく分からないものがほとんどだと思う」
「そうなんだ。タイチの故郷……」
とりあえず適当に誤魔化しておこう。
こことは違う地域の、しかも遙か向かしのものだと言えば、あまりにもおかしなものだとしても納得するだろう。
「つ、次はもっとちゃんと現代のものを書くからさ!そしたからまた見てくれないか?」
「うん!次もまた楽しみにしてるねっ!」
「あ、ありがとう……」
「あっ、でも修行もちゃんと頑張ってよね?パパ、あれでもタイチにはすごく期待してるみたいだから」
「分かってるよ」
期待……しているのか……。
最初のと合わせて二回ほど修行はあったが、結局俺の体力がなさ過ぎて一時間程度で終わってしまっていた。
だからてっきり呆れられているんだろうと思ってたけど……。
「じゃあ、私店の手伝いがあるからっ」
「うん、エリも頑張って」
「うんっ、ありがとうっ」
そうしてエリはお店の手伝いを。俺はタイチさんの修行をしに部屋を出た。
「はぁ……」
タイチの部屋を出て、お店の手伝いをするため厨房へと向かったところで思わずため息がでてしまう。
「ん?どうしたのエリ。何か悩み事?」
「あっ、ママ」
う〜ん……、あんまり気乗りしないけどママに相談した方がいいのかな……?
「――ううん、なんでもないっ。じゃあお店開けてくるね!」
「は〜い、よろしくね〜」
やっぱり私は結局言わないことにした。
タイチのことを最近……男の子なんだなって思うようになったのなんて相談しても仕方ないしね。
だってタイチは男なんだもん。
最初の頃は本が好きということで仲良くなっただけど、相手が男だとか異性だとか全く考えてなかった私が悪いんだから。
それであまりスキンシップはしないように気をつけてるけど、気を抜いたらすぐにしちゃうんだよな……。
異性との距離感が分からないけど……タイチもすごく恥ずかしがっていたから気をつけないとっ。
「――いらっしゃいませー!」
そんなことを軽く考えながら私は元気よく声をあげた。
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