第11話 自作小説

「――出来たぞっ!」

 作業に取りかかってから約二日間。時間にしておよそ12時間程度。

 約半日かけて俺はついに完成させた。

「ラノベが出来たっ!」

 そう。俺は萌え文化がないこの世界で、萌え成分を補給するために、ついに自身の手で萌えを生み出したのだ。

 といっても内容は俺が見たことがあるストーリーをそのまま書き写しただけのただのコピー版。

 しかも俺の稚拙な文章も相まって劣化版と化していた。

 しかしこれでも一応は萌え。

 可愛い女の子達が沢山出てきて、きゃっきゃうふふするようなそんな萌え小説を書いたのだ。

「ふふっ、ふふふっ、ついにこの世界に萌えが……」

「――ん?何見てるの?」

「っ!」

 突然背後から声をかけられ、慌てて振り返る。

 するとエリが俺の手元をのぞき込むようにこちらを見ていた。

「……っ!」

 しかもエリは背後からのぞき込んでいたものだから、そのまま振り返るとエリの顔が目の前にあったので俺は慌てて顔をそらす。

「あっ、ごめん……」

 するとエリも少し恥ずかしそうに顔をそらす。

 以前まで、平気でボディタッチだってしてきたし、肩を並べて本を読んでいたのに、どうも最近エリの様子がどこかおかしい。

 まぁ、恐らく原因は初めての修行の時、エリの足下をのぞき込んでしまった――といっても故意ではない――せいだろう。

 それ以来、俺はエリに嫌われたのか過度に近づいてくることがなくなった。

「それで何見てたの?」

「え、えっと……それは……」

 コミュ症の俺がようやく会話に慣れ始めたのに、相手に嫌われると自覚した瞬間やっぱり元のコミュ症が発症してしまうのは本当に困ったものだ。

「ちょっと小説書いてて……」

「えっ!?タイチが自分で書いたのっ!?見たい見たいっ!」

「あっ!」

 前言撤回。近づいてくることがないって言ったけど、やっぱエリはエリだ。

 よっぽど俺の書いた小説が気になったのか、身を乗り出して小説をのぞいてきた。

「へぇ〜ほんとに手書きだ〜。是非読ませてよっ」

「い、いや……その……」

「な〜に、恥ずかしがってるのよっ。タイチのことだからきっとすごく面白いんでしょうねっ」

 喜々として言うエリには申し訳ないけど、この恥ずかしい感情は小説を読まれることより……。

「あっ……」

 服と服が触れ合う感触にようやく気づいたのか、エリはさっと離れていった。

「あっ、ご、ごめん!悪気があった訳じゃっ!」

 俺は顔面を踏まれたことを思い出し、すぐさま謝る。

「い、いやいいのよっ!い、今のは私が悪いわけだしっ。そ、それよりも小説読ませてちょうだいっ!」

「う、うんっ。わ、分かったっ!」

 お互い恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めながらも、俺は小説を手渡す。

「じゃあ早速読ませてもらうねっ!」

 しかし先ほどのことをすぐに忘れるようにエリは俺の小説に目を落とす。


 さぁ、果たしてこの世界の住人に萌えは伝わるのか……。

 ――といってもすでにある程度のリアクションは想像できるが……。


「学校?これって何なの?」

 読み始めてから僅か一ページ目の文章。

 エリは首を傾げながらそう呟いたのだった。

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