第10話 靴底

「ほれっ、下ががら空きじゃ」

「うへっ!」

 木刀を構えて攻撃を防ごうとするも、ダインさんに足下を狙われてしまい、すぐさま地べたに腰をついてしまう。

「タイチっ、お前のだめなところはすぐに諦めるところじゃ!いいか戦闘中に攻撃を受けたとしてもすぐに体勢を立て直せっ!」

「は、はいっ……ぐへっ!」

 手をつき咄嗟に立ち上がろうとするが、今度はその手を木刀で叩かれてしまい俺は再び尻餅をついてしまう。

「何をちんたらしておるっ!意識は常に敵へ向けておけ!」

「んな無茶な……」

 いや……言いたいことは分かってはいるんだけど……それとこれとは別問題だ。

 敵に意識を向けようとすると動きが遅くなり、かといってすぐに体勢を立て直そうと意識すれば敵への意識が薄れてしまう。

 その行為がどんなに戦闘中に命取りになるのか、今までのアニメや本の知識で俺は嫌というほど知っているはずだ……。

 ――あの時、もっとちゃんと動けよと主人公に文句を垂れていたけど、全力で謝らせて欲しい。あんな動き普通は出来ねぇわ……。

「無茶でもやる!でないと冒険者にはなれんぞっ!」

「は、はいっ!」

 しかしかといって冒険者になることを諦める訳にはいかない。

 何故なら俺が異世界人としての役目を放棄すれば、即刻この世界から退場させられてしまう。

 折角の異世界なんだ。エリとも仲良くなったしまだこの世界の本も読み尽くしてないので退場だけはしたくない。

 俺はその一心でひたすらダインさんの修行を耐えた。




「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……。もう無理……死ぬ……冒険者なりたくない……」

 ――前言撤回。やっぱり俺冒険者になれねぇ……。

 初回だからかはたまた俺があまりにもふがいないせいか、ダインさんの修行は一時間程度で終わった。

 そして今は立つ気力もなく、ただただ家の裏の空き地で一人寝そべっている。

 神から基礎ステータスをあげられているのにこれだ。

 どうやらダインさんは俺が弟子になってから修行のメニューを昨日までみっちり考えてくれていたようで妙にやる気満々だった。

 こちらとしてはそこまで考えてくれて嬉しいのだが……せめて、もう少し簡単なところからスタートしてほしかった……。

「――大丈夫?」

「へ?」

 頭上から声が聞こえたかと思うと、エリが俺の顔をのぞき込んでいた。

 どうやら心配して来てくれていたようだ。

 しかもエリは何も考えてないのか、下から太股が伺えるほど、まるで無防備な姿だった。

 だけど今の俺はそんな状況に興奮する力もなく、ただただ切実な願いを話す。

「――萌えが……、萌えが欲しい……」

 この疲れた体を癒すのは萌えしかない。

 これは早急にでも萌えるものを見つけないと……。

「ん?どこ見てる…………きゃっ!」

「うべぁっ!?」

 萌えを探し求めていたせいか、俺はいつの間にかエリの太股の先、神聖なるも領域に視線を向けていた。

 ダインさんの攻撃よりも遙かな破壊力を持った靴底が、俺の顔面にめり込むのだった……。

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